バブル崩壊後の就職氷河期に社会に送り出された若者は「ロストジェネレーション」と呼ばれる。終身雇用が当たり前だった団塊世代と違い、派遣社員やフリーターとして不安定な生活を送る者も多い。そんな世代間格差に対して声をあげる若者も出てきた。その代表といえる元フリーターのフリーライター、赤木智弘さん(34歳)は「どの政党も若者支援のビジョンがない」と批判する。
今は現役世代が経済的に弱く、老齢世代が強い力をもっている
「国民全体にいい顔ができるような政策は、たぶんもうできない」という赤木智弘さん
――今回の衆院選では自民党も民主党も「子育て支援」の政策を打ち出して、若者世代の票を取り込もうとしています。
赤木 子育てをするには経済力が必要ですが、今の若い人は経済的に余裕がないので、子育て支援は当然のことだと思います。しかし、子育て支援だけしても意味がない。子育てもお金がかかりますが、それ以前にお金がなくて結婚できない人もいるわけです。そういう人たちも含めてトータルにサポートしていくことが必要です。
――経済的に余裕がない若者をサポートするために、どんな政策が求められているのでしょうか?
赤木 年金制度の根本的な見直しです。本気で若い人を支援しようとするなら、「子ども手当て」などの場当たり的な政策では不十分です。老齢世代への年金の分配を減らし、若い世代の負担を軽くするべきです。
――なぜそのような見直しが必要なのですか?
赤木 今までの日本社会は経済成長をしていましたから、基本的にインフレベースで、現役世代が強く、老齢になるとそれまで得てきた資産を少しずつ失っていくという構造でした。一人の人の経済状況を山にたとえると、だいたい50代ぐらいに頂上があって、そこから徐々に下がっていく感じ。老齢世代は経済的に弱いから、年金制度で山の上のほうから下のほうへお金を分配する方式になっていたわけです。
――それが今はどうなっているのでしょう?
赤木 今はぐちゃぐちゃです。終身雇用や年功序列が崩れ、非正規雇用も増えた結果、若い現役世代のピークはぐんと下がってなだらかな丘になってしまいました。その一方で、老齢世代は高度経済成長やバブルのときに獲得した資産をまだ溜め込んでいる。つまり、以前とは逆に、現役世代が経済的に弱く、老齢世代が強い力をもっている。それにもかかわらず、いまだに現役世代から老齢世代にお金を分配しようとしているので、低いところにいる若い人たちが苦労しているのです。
老人がためこんだ金をはきだし、若者に回せ
――経済状況が変わったのに、制度は旧態依然のままということですね。
赤木 子育てを支援するだけでなく、年金制度を維持するのであれば、若い人に対してちゃんとお金を渡すようにしないとだめですよ。逆にこれまでいろいろ恵まれてきた老齢世代の人たちは、これから資産を吐き出してもらわないといけない。でも、どの政党のマニフェストを見ても、若い世代に対してどういう立場であってほしいのかというビジョンがまったく見えてこない。
――既存政党はみな「老人政党」だ、という声もありますね。
赤木 どの政党も、基本的なベースは変えずにこれまで通りやりたいと思っている。「これまで通りの社会」というのは、若い人が搾取される社会です。それは自分たちの世代として、賛成しがたいんですよ。
――高齢者からは「昔、苦労したんだから、ご褒美があってもいいだろう」という反論もあると思いますが?
赤木 そう言う人たちって、だいたい家を建てたりするときにローンを使っているんですよね。ローンというのは、将来の給料を担保にして若いときにお金を使えるようにするものです。でも、いまの若い人は確実に給料が上がっていく保証がないので、ローンが組みにくい。ましてや非正規だったら非常に厳しい。そこが老齢世代と若い世代では全然違う。
自民党も民主党も向いている方向は同じ
――もう一つの反論として、長いあいだ年金を納めてきたんだから、それを払ってもらう権利があるという意見もあります。
赤木 年金制度の目的が本当に老人の生活を下支えすることにあるとしたら、厚生年金と国民年金で圧倒的な差が生じるという、おかしな事態は起きないはずです。本当の社会福祉としての年金であれば、支払った額や期間が支給額に連動する方式でなく、老人のだいたいの生活水準をざっくり見積もって支給すればいいんです。
――少し前には、年金を納めた期間や金額がわからなくなったといって、大騒ぎしましたよね。
赤木 年金の再計算にしても、年金特別便にしても、あれでどれだけお金を使ったんだろうと思います。年金に関しては、すぐお金が出るんですよ。でも、払った金額を1円単位で問題にして、そこから支給額を決めるのは、年金を一種金融商品としてみているということ。福祉とは考え方が違います。
――年金に関しては、財源をどうするのかというのも大きな課題です。
赤木 財源も重要ですが、本当に必要なのはプライオリティの設定です。若い人の経済力を強くして将来に希望をもてるようにするのか、それとも、年齢に関係なく自由競争にしてしまって、こぼれ落ちた人のためのセーフティネットを整備するのか。あるいは、老人に力を与えるようにするのか。そのような優先順位を明確にしたビジョンがどの政党からも見えません。
――いっそ「老人政党」と「若者政党」にわかれてくれたら、わかりやすいんですけどね。
赤木 そのほうがありがたいですね。投票しがいがあります。年金に対する姿勢という意味では、自民党も民主党も向いている方向は同じですから、あまり面白くはないですよね。
※インタビュー第4回は、非モテSNS管理人の永上裕之さんです。
赤木 智弘さん プロフィール
あかぎ ともひろ 1975年、栃木県生まれ。月刊誌「論座」2007年1月号に掲載された論文「『丸山眞男』をひっぱたきたい――31歳、フリーター。希望は、戦争。」がロストジェネレーションの若者の本音を鮮烈に伝えているとして反響を呼んだ。現在はフリーライターとしてさまざまな媒体で著述活動を行う。著書に『若者を見殺しにする国』(双風舎)、『「当たり前」をひっぱたく』(河出書房新社)。