動画投稿サイト「ニコニコ動画」にアップされた、酒井法子容疑者の代表曲「碧いうさぎ」の替え歌「白いクスリ」を巡ってドタバタ劇が演じられている。歌ったのが「初音ミク」で、「ミク」を開発・販売しているクリプトン・フューチャー・メディア(札幌市)が「営業上の利益や信用が侵害される」とし削除を要求。「ニコニコ」側はいったん削除したものの、「クリプトンの削除依頼には法的な根拠がない」とし、再度アップするといった具合なのだ。
ソフト開発者が口挟めるのか
騒動になっている動画は2009年8月9日午前2時に「ニコニコ動画」にアップされた。酒井容疑者の「碧いうさぎ」の替え歌で、歌詞は、「あとどれくらい 連絡断てば 薬物検査パスできるかしら」「白いクスリ ずっとやってる 切れちゃうと震え来るから」「たとえずっと会えなくても シャブがあれば それでいいわ」などと続く。アップ後すぐに話題になり2日間で20万近いアクセスがありコメントは1万を超えた。
動画が削除されたのは09年8月11日の夕方。削除後に残された画面には、クリプトン・フューチャー・メディアの依頼により削除した、という告知があった。この替え歌を歌ったのは、まるで人間が歌っているかのように表現できるパソコン用ソフト(ボーカロイド)の「初音ミク」。
ソフトを開発・販売しているクリプトン社は、09年8月13日、削除依頼の理由を同社サイトの「ピアプロ開発者BLOG」で説明した。そこには、
「名誉毀損罪を構成するおそれのある行為に用いられ、これがインターネット上で公表されていること」
「弊社製品を含む音声合成技術全般、およびこれを利用した創作活動全般に対するイメージが、多様性のある実態と異なるかたちで報道によって広まり、一般に認知され定着するおそれがあること」
と書かれ、営業上の利益および信用が侵害されるおそれを考慮した、としている。
クリプトン社の削除依頼についてネットでは、「ミク」のイメージが損なわれる可能性があることを理解しながらも、削除に対する非難が多数を占めた。「ミク」はこれまで、ダークなジャンルを含め、ユーザーの自由な発想によって楽曲が作られ続けてきたことが「バーチャルアイドル」として絶大な人気を得る理由になっていたこと。また、「ミク」は一種の「楽器」であり、「楽器」のメーカーであるクリプトン社が、「楽器」を使った創作に口を挟むのは如何なものか、という考えだった。
「ミイラとりが、ミイラになってるんじゃないか」
「ニコニコ」を運営するニワンゴの西村博之取締役は、09年8月12日付けの自身のブログで「クリプトンさんが、なにやらおかしなことをし始めている気がします」とクリプトン社を批判。薬をやるとよくない、と「ミク」が歌っているだけなのではないか、とし、
「クリプトン社の社長の伊藤さんは、ネット上のMIDI(電子楽器の規格)の文化がなくなったのは、JASRACが権利を濫用したせいだみたいなことをおっしゃっていたと思うのですが、いつのまにか、ミイラとりが、ミイラになってるんじゃないかと」
などと書いた。
そうした中、「白いクスリ」の削除に応じた「ニコニコ」を運営するニワンゴは09年8月17日、一転して、
「削除した動画(白いクスリ)をこのあと復旧いたします」
とのニュースリリースを出した。クリプトン社の削除依頼には法的な根拠がない、と判断したためだという。今後は削除依頼に関しては、第三者が「営業上の利益および信用が侵害されるおそれがある」とみなした場合でも、法的な根拠に乏しければ削除はしない、としている。その代わり、動画をアップしたユーザーに対し、「ライセンス元から削除するように警告がきた」ことを通知。ユーザーの判断に任せ、ユーザー自身で動画を削除してもらうことが円満な解決になるだろう、と説明している。
今回のニワンゴの決定について、クリプトン社はどう考え、対応していくのだろうか、クリプトン社に取材を申し込んだところ、
「本件につきましては、現在関係各社様と協議いたしております」
とだけコメントした。