東京の居酒屋におみやげのデザートワインを持ち込んだら、店長から「困る」と説教され不快だった――。あるブロガーが、作家よしもとばななさんのこんなエッセイを紹介したところ、店長らの対応にブログなどで賛否両論が出ている。
東京の居酒屋、ワイン持ち込み拒否に不快感
「キッチン」「TUGUMI」などの小説で広く知られるよしもとばななさん。今回話題になったのは、2006年6月に出版され、09年4月に文庫化されたエッセイ集「人生の旅をゆく」の中の一節だ。
エッセイで、よしもとさんは、東京の居酒屋で、飲食の後に、ヨーロッパから一時帰国中の友だちがおみやげに持ってきたデザートワインを開けたときのことを書いた。そのときは、友だちの送別会を兼ねており、店の女性アルバイトにグラスを借りて、仲間内7人で小さく乾杯した。
店内には、よしもとさんらしかおらず、あと2時間で閉店だったという。ところが、居酒屋の店長は、グラスを貸した女性バイトをキッチンで激しく叱り、よしもとさんらにも「困る」と説教をし始めた。よしもとさんらは、友だちが海外から持ってきた特別な酒で、いくらかお金も支払うと説明したが、店長は一度許すときりがないと受け付けなかったという。
これに対し、よしもとさんは、「みながそれぞれの仕事のうえでかなりの人脈を持っている」と店長が見抜くべきだったと批判。持ち込みのリスクがなくなる代わりに、潜在的に大勢の客を失ったとして、「店長がすげかえられるか、別の居酒屋になっているだろう」「都会のチェーン店で起こっていることの縮図」などと指摘している。
このエッセイ内容は、医療関係の仕事をしている30代後半の男性がブログ「活字中毒R。」で8月8日に部分的に紹介した。その中で、男性は、店長は見て見ぬふりをするのが妥当なのではないか、いや、店長の言うことは正論ではある、ただ客が聞こえるところでバイトを叱るべきでない、などと考え込んでしまったことをつづっている。
ケース・バイ・ケースと各飲食店
男性のブログエントリーは、その考えさせる内容から、ネット上で反響を呼んだ。はてなブックマークが900以上も付いているほか、ほかのブログでも取り上げられ、賛否両論など様々な意見が出ている。
店長に対する賛成派は、持ち込みを見逃せば客に注意できなくなるので、当然の対応というものだ。ブロガーの意見を見ていくと、あるIT企業役員は、自らのブログ「よしのずいから」で、飲食店経営の経験から、店は飲食物を売って利益を出しているので、持ち込みは事前に相談してOKが出てからすべきだと説いた。食中毒やゴミ、店の雰囲気を壊すことなどの問題があるという。最近は、勝手に菓子を食べたり、缶ビールを飲んだりする客がいて、店が迷惑しているとしている。
また、ブログの中には、よしもとばななさんが特別扱いを求めるのは非常識だとの指摘も多い。もっとも、よしもとさん自身は、作家独特のエスプリやレトリックを効かせたのかもしれない。
一方、店長が堅物で接客を分かっていないという否定派もいる。
個人事業主という男性ブロガーは、「タケルンバ卿日記」で、自らのサービス業経験から、店長は、見て見ぬふりをしてもよかったと指摘した。客には、一回限りと伝えればよく、ワインボトルを店で預かって店長自らグラスに注いで持ってくるなど、店の利益より客を優先すべきだとした。また、そうでないと、バイトなどの従業員も離れ、いずれ接客レベルが落ちて、店は持たないと訴えている。
実際の居酒屋などでは、客の持ち込みにどう対応しているのか。
「和民」などを展開しているワタミでは、こう言う。
「仲間うちで誕生日のケーキを持ち込みたいという依頼がままあります。うちではケーキを扱っておらず、目的がお祝いですので、『大丈夫ですよ』と対応しています。ただ、アルコールについては、扱っているのでコメントできません。時と場合にもよります。有名人だから特別視することもありません」
コーヒーチェーンを展開するスターバックスコーヒージャパンでは、「お酒はありえませんが、おみやげのお菓子などは、事前に相談していただければ、試食などをしてもいいこともあります。ただ、ケース・バイ・ケースになるかもしれません」と話している。