メディア報道は「思考停止」 テレビは特に目立つ
(連載「テレビ崩壊」第2回/郷原信郎教授に聞く)

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間違ったときいかに誠実に検証できるかが問われる

――テレビ全体に共通する構造的な問題があるということでしょうか。

郷原 そうです。まず「視聴率と利益を追及する」ことと、真実に迫り、誤った放送をしないこと、この二つが調和しなくなっているのではないでしょうか。広告減が進み、利益を上げるためには制作費を削る。つまり、真実に迫るための取材にあまり金をかけることができなくなる一方で、視聴率を取るために、面白さが求められる。世の中で実際に起きたことを単純化して、面白おかしく報じた方が視聴率を取れるということで、真実に反する放送が行われる恐れは一層大きくなっていくのです。視聴率をバックにした広告収入で成立している現在の経営形態を抜本的から考え直す必要があると思います。
   また、これはテレビに限りませんが、マスメディアは「報道は常に真実でなければならない」という建前を維持しようという「真実性のドグマ」にとらわれています。もちろん、真実に限りなく迫る努力を最大限すべきですが、結果的に間違ってしまうことは起こり得ます。報道の真実性について問題が指摘されたときに、いかに誠実に検証できるかが問われるのですが、建前を維持しようとするため、間違いの検証に消極的になっているのです。コンプライアンスを取材・報道に組み込むメディアは生き残り、そうでないところは淘汰される環境の実現が大切です。

――ではどうすればいいのでしょうか。

郷原 難しい問題です。BPO検証委などはあてにならないし、さりとて何か組織を別につくれば解決する話でもありません。最後は、記者一人ひとりがプロフェッショナルとして恥じない公明正大さを持ちながら、互いにチェックし合っていくしかない気もします。会社側もそういう記者たちを尊重する組織であるべきでしょう。

――視聴者の信頼という観点から、テレビは今後も生き残ることができるでしょうか。

郷原 何だかんだ言ってもテレビは視聴者に依然大きな影響力を持っています。テレビで物事が単純化され、世の中全体に一方的な見方が植え付けられると、それを是正することは困難です。しかし、インターネットの浸透もあって、その批判の前提が間違っていることが多いということに気付く人が増えています。現状のままではテレビに対する信頼が一層崩れていくことになりかねません。テレビ事業者が自主的に放送内容の真実性を確保するためのシステムを構築し、それがきちんと機能しているかどうかをチェックする制度を確立する必要があるでしょう。

<郷原信郎さん プロフィール>

   ごうはら のぶお 1955年、島根県松江市生まれ。東京大学理学部卒業。東京地検特捜部検事、法務省法務総合研究所研究官、長崎地検次席検事などを歴任。2005年から桐蔭横浜大学法科大学院教授を務め、09年に名城大学総合研究所教授、同大コンプライアンス研究センター長に就任。07年には不二家の信頼回復対策会議の議長、09年には西松建設の違法献金事件を受けた民主党の第三者委員会の委員も務めた。著書に「『法令遵守』が日本を滅ぼす」(新潮新書)などがある。

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