大西洋に生息するクロマグロ(本マグロ)を、野生動植物を保護する「ワシントン条約」の「絶滅危惧種」に加える動きがヨーロッパで広がっている。2008年に日本で消費したクロマグロは4.3万トンで、そのうち4割以上が大西洋クロマグロだった。取引が禁止されれば、日本近海にいる超高級な本マグロしか手に入らなくなり、料亭や高級寿司屋でないとお目にかかれない希少品になりそうだ。
日本消費量の4割以上が大西洋産
2010年3月に開かれるワシントン条約締約国会議で、モナコは大西洋クロマグロを絶滅する恐れがあるとして商取引を禁止する「付属書1」に加える提案をする模様だ。付属書1にはシーラカンスやジュゴンが登録されている。
日本は08年のクロマグロの消費量が4.3万トンで、このうち4割以上を大西洋産に頼っている。取引が禁止されれば大問題だ。
水産庁漁場資源課の担当者は、
「大西洋クロマグロが減っているのは事実ですが、絶滅の恐れがあるというのは言い過ぎです。完全に禁止するのではなく、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)の規制に従って各国が漁獲量を減らしていけば、資源が回復すると思います」
といっている。
また、こうも指摘する。
クロマグロの漁場は大西洋のほかに太平洋などある。同じ種類のマグロなので見た目は変わらない。また切り身で輸出すれば、キハダマグロ、メバチマグロとも見分けがつかなくなる。どう見分けるのか。
「モナコは輸出の際にDNA鑑定をすればわかるといっていますが、鑑定技術がない国もあります。またいちいちDNA鑑定をしていたら時間もかかり、マグロ貿易全体で大混乱になりかねません」
こうした理由から、モナコに反対意見を提出する考えだ。
ワシントン条約締結国は現在175カ国。会議参加国の3分の2以上が賛成すれば可決される。ドイツ、イギリス、オランダ、フランスがモナコ案を支持するようだ。
「料亭や高級寿司屋でしか食べられなくなるかも」
取引禁止となれば、大西洋でクロマグロを獲っている漁業者にとって死活問題だ。日本で大西洋マグロを獲っている船は40隻ほどで、そのうち10隻は宮城県の気仙沼漁港から出ている。
1隻あたりのクロマグロ漁獲量は年間50トンと決められている。1kgあたりの取引価格を3000円と仮定すると、取引禁止の場合の損失額は10隻で年間15億円になる、と宮城県水産新興課は試算している。
同課の担当者は、
「半年から1年かけて本マグロだけを獲っていることが多いです。本マグロは単価が高いので、ほかのマグロで同じだけ稼ぐには量が必要になりますし、本マグロが生息する太平洋など他の漁場に移ればいいという簡単な問題ではありません」
と頭を抱える。
消費者にも影響が出そうだ。
東京・築地の卸売会社の専務は、
「取引禁止になれば大間のマグロのような、日本近海で獲れる最高級魚しか出回らなくなるでしょう。希少価値が増すので今よりも値段が高くなりますし、料亭や高級寿司屋でしか本マグロが食べられなくなるかもしれません」
と話している。