金融危機で経営難に陥った米シティグループ傘下の日興シティホールディングスをめぐる交渉が決着した。日興コーディアル証券などは三井住友銀行が中核の三井住友フィナンシャルグループ(FG)、日興アセットマネジメントは住友信託銀行に売却先が決定し、主役は三井住友勢が演じた。「犬猿の仲」と言われてきた三井住友銀と住友信託銀だが、「日興買収を触媒に関係が接近するのでは」との憶測も呼んでいる。
両者の共通項は三菱UFJへの強烈なライバル意識
三井住友FGと住友信託の共通項は、三菱東京UFJ銀行と三菱UFJ信託銀行を傘下に持つ三菱UFJフィナンシャル・グループへの強烈なライバル意識だ。
三井住友FGは2004年、不良債権問題で経営が追い詰められたUFJ銀行の争奪戦を三菱東京FG(当時)と繰り広げたが、敗退した。誕生した三菱UFJFGは、資産規模でみずほFGを抜き、邦銀トップに躍り出た。一方、三井住友FGは3メガバンクで「万年3位」にとどまり、首脳陣は悔しさをかみしめながら、巻き返しの機会を図っていた。
住友信託も2004年、UFJ信託銀行の買収でいったん合意した。だが、三菱東京FGとUFJ銀行の統合が決まったため、土壇場でUFJ信託を三菱信託銀行にさらわれ、これを不服とした住友信託が三菱UFJ信託に損害賠償を求める訴訟にまで発展した。
三菱UFJFGは当初、三菱グループだった日興の買収に意欲を燃やし、三菱UFJ信託は2008年末、日興シティ信託銀行の買収で一度は合意した。しかし、三菱東京UFJ銀が巨額出資した米モルガン・スタンレーとの提携を優先して、日興買収を断念。日興シティ信託の買収も撤回した(最終的に野村信託銀行が買収)。日興の大半を手中に収めた三井住友勢が「積年のうらみ」を晴らした格好だ。
3メガバンクで信託銀行持たないのは三井住友だけ
次の段階で注目されるのは、「共通の敵」をひとまず退け、ビジネスで関係の深い日興コーディアルと日興アセットをそれぞれ手に入れた三井住友FGと住友信託の関係だ。日興アセットは資産運用大手で投資信託などの商品の主力販売ルートは日興コーディアル。住友信託はさっそく「三井住友FGに日興アセットへの出資を求めたい」との意向を明らかにした。
住友信託は過去に旧日本長期信用銀行の買収を検討するなど独自の拡大路線で知られ、3メガバンクの再編でも、三井住友銀に呑みこまれることを警戒し、一線を画してきた。ところが、今回の日興買収を機に、「住友信託が三井住友FGとの関係修復に動くのでは」との観測が飛び交う。3メガバンクで傘下に信託銀行を持たないのは三井住友だけとあって、「三井住友も満更ではない」(業界関係者)とのうがった見方も出たほどだ。
もっとも三井住友FGからは「住友信託は陰でこそこそ三井住友の悪口を言うくせに、自分の商売で助けが欲しくなると『お兄ちゃん、協力して』と求めてくる。いつものコバンザメ商法だ」(幹部)と、冷めた声も聞こえる。住友信託も「日興アセット買収は本業の信託回帰への一環」(幹部)と三井住友FGへの接近は急がない構えで、「三井住友FGと住友信託の統合」など、まだまだ気が早い話ようだ。