今、富士山は登山者で「激混み」状態だ。五合目の駐車場はすぐに満車となり、路上に車が連なる。登り始めると、今度は長い、長い人の渋滞が起き、頂上付近で1時間ほど待たされることもしばしばだという。これほど人気が過熱しているのはなぜなのか。
登山者の数はここ数年で「激増」
「五合目の駐車場に行ったら『満車だから路上駐車して』といわれた」
と話すのは、神奈川県に住む男性会社員(25)だ。ほぼ毎年富士山を訪れているが、2009年も8月1日に富士に登った。しかし、こんな異常な状況は初めてだ。路上に2キロほど車が連なり、三重、いわき、和泉など遠方ナンバーの車が目立つ。「去年までほとんど見なかったのに」と驚きを隠さない。
さらに、7月下旬に登ったという都内の男性契約社員(31)も、朝4時の時点ですでに駐車場は満車だったという。
「激混み。九合目付近は1歩進んで1分停止するようなひどい人間渋滞で立ち往生した。都内の花火大会よりすごい人ごみだった」
と話す。
確かに富士登山者の数はここ数年で「激増」している。登山口の中で例年最も利用者が多い「吉田口(河口湖口)ルート」の登山者数は、05年の14万1472人から上昇に転じ、06年が16万7368人、07年が19万4007人。そして昨年08年は24万7066人と、実に3年で10万人以上増加している計算になる。09年も8月3日までで11万2000人と、昨年と同等のペースだ。
特に増えたのが20~30代の女性登山者
特に近年増えたのが、20~30代の女性登山者だという。「山小屋や富士山を管理している者の間でも『女性の登山客が増えた』ともっぱら話題にしてます」と話すのは富士吉田市・富士山課の担当者。旅館組合などが06年から取り組んできたリピーターを増やす取り組みが功を奏しているのではという。
「人が入るだけ入れていた山小屋の収容人員を制限し、ゆとりを持って宿泊できるようにした。さらにトイレを環境配慮型のきれいなものにするなど、汚い、狭い、不快だった富士山を一新しています」
さらに09年からは、各山小屋に女性用更衣室スペースを確保し、トイレに生理用品を配置するなど、「女性に優しい富士山」を目指し整備を行っているそうだ。
このような取り組みに加え、不景気で「安・近・短」の「非日常」への需要が高まっていることや、アウトドアブーム、さらには「心が洗われる」といったスピリチュアルな側面が複合し、人気が過熱しているのでは、と同担当者は分析する。
ただ、富士山安全指導センターの担当者は「気軽に登山する人も多く、ケガ人も増えている」と警告する。登山に慣れている人は天候に敏感で危険を察知しやすい反面、初心者は軽装で登ったり、悪天候でも無理して登ったりし、ケガや体調不良を起こす傾向にある。
「きちんとした服装で登ってほしいのと同時に、状況が悪ければあきらめも肝心。富士山は逃げないので、断念し次の機会に持ち越すのも勇気だと思います」