犯罪から地域の子どもを守ろうと、全国15か所の通学路に防犯カメラを設置する計画を警察庁が進めている。防犯カメラの設置をめぐっては、犯罪抑止効果が期待される一方、プライバシー保護の問題もつきまとう。中には、「言論・表現の自由を萎縮させる危険がある」として、計画の撤回を求める声明を出す弁護士会もある。議論は平行線をたどる可能性もありそうだ。
「安心感のために人権を制約することは許されない」
問題とされているのは、警視庁が2009年6月に打ち出した、防犯カメラ設置についてのモデル事業。補正予算で防犯カメラの設置費用など計5億9000万円を計上し、14都県の15地域で、原則として1つの小中学校周辺に25台を設置。カメラや録画データの管理は、地域にある民間の防犯ボランティア団体に委託し、10年1月にも運用を始めたい考えだ。
全国の警察では、すでに全国の繁華街に363台のカメラを設置しているが、住宅街への設置は初めてだ。この方針をめぐって、異論が噴出しているのだ。設置対象地区の住民からは、自宅がカメラに映りこむなどのプライバシー上の問題を指摘する意見が相次いでいるほか、福岡県の弁護士会が09年7月31日、計画の撤回を求める声明を発表、福岡県警に提出したのだ。
声明では、
「警察等による市民監視や不透明な個人情報の収集・利用は、個人のプライバシー権を侵害するばかりか、民主主義社会を支える言論・表現の自由を萎縮させる危険がある」
と指摘した上で、
「抽象的な『安全』や単なる主観に過ぎない『安心感』のために人権を制約することまで許されているのではない」と主張。さらに、警察がカメラを設置するためには、過去の判例に照らして(1)犯罪発生の蓋然性が高いこと(2)証拠保全の必要性・緊急性があること、などの要件を挙げ、
「全国的にも、福岡県下においても、犯罪は減少しており、(カメラの設置が予定されている、福岡市中央区の)大名校区で、特に通学路において犯罪が頻発しているとの事実は認められない。従って、その設置は、違法であるといわなければならない」
と、カメラ設置の実効性についても疑問を投げかけている。