恋愛の形、男女関係が新しかった
さて、そんな村上作品の魅力とは何なのか――。日本の近現代文学の研究で村上作品にも詳しい中央大学の宇佐美毅(うさみ・たけし)教授は、「いろいろな読み方ができるのが魅力でしょう」と話す。
宇佐美教授によると、村上作品の読み方として、恋愛や都会的なオシャレさが好きな「憧れ型」、ストーリー展開の謎に迫る「謎解き型」、人間関係の距離の取り方や無理しなくてもいいのだという癒しを求める「癒され型」に分けられる、と指摘する。また、小説の舞台が1960年代後半に設定されているケースも多く、古くからのファンにとってはノスタルジーも魅力。いずれにしろ、多様な読みができるために、様々な読者がついているようだ。
もっとも、宇佐美教授は、「デビュー当時からも一定のファンがついていましたが、作家としての人気を決定づけたのが『ノルウェイの森』でしょう」とする。このベストセラー小説は、恋愛の形、男女関係が新しかった。恋愛小説といえば従来は、べたべたとしたものが多かった。――アナタがいなければ生きている意味がないというパターンだ。
しかし、「ノルウェイの森」では、死んでしまった人間に対して、残された人間はどう生きていくか、その傷をどう癒すかが描かれた。宇佐美教授によると、この点が新鮮であり、読者に広く受け入れられたという。また、22年たった今でも新鮮に感じるのは、「自殺者が毎年約3万人にもなる現在の日本は生きにくいし、人とつながるのが難しい社会。そんな中、身近な人に(それも自殺によって)先立たれてしまった心の傷に対する癒しは、切実で今日的なのではないでしょうか」と話していた。