政治面、経済面、社会面の次は「ウェブ面」――。5大紙の一つ、産経新聞にインターネットの話題だけを取り上げる「面」が新たに登場した。日本の一般紙では初の試みだ。購読者数や広告収入の激減で苦境にあえぐオールドメディアが打ち出した一手は、これまで敵視してきた「ネット」との連携だった。
日本の一般紙では初の「ウェブ専用面」
1ページまるごとネットの記事だらけ。産経新聞の新「ウェブ面」には、2ちゃんねる元管理人のひろゆき氏のインタビューやニコニコ動画の記事が掲載された
産経新聞は2009年7月30日、全国版の紙面を丸々1ページ使って「Web(ウェブ)面」という新紙面をスタートさせた。毎週木曜日(一部地域は金曜日)に、インターネットに関する様々なニュースを取り上げる。1回目のトップ記事は、人気急上昇のミニブログサービス「ツイッター(Twitter)」の紹介だった。
「これまでもネット関連のニュースを断片的に出していたが、1面全部をつぶしてネット界の最新ニュースを伝える試みは日本で初めてだと思う」
と、同社の斎藤勉常務は記者会見で胸を張った。記事の執筆・編集にあたっては、ウェブ面専属の部署は特に設けず、社会部や経済部、文化部でネット関連の取材をしている記者が随時記事を書いていくスタイルをとる。
新紙面の狙いは2つある。1つは、「ネットは敷居が高い」と感じている産経新聞の既存読者にインターネットという新しい世界の情報をわかりやすく伝えること。もう1つは、ふだん新聞をあまり読まないネットのヘビーユーザーが好みそうな話題を提供して、これを機に産経新聞を手に取ってもらおうという戦略だ。
「紙面の右上のほうには一般読者向けのニュースを掲載し、左下にはネットのヘビーユーザー向けに深い情報を掲載していく。言葉の使い方も、一般読者向けの記事とヘビーユーザー向けとでは使い分けていこうと考えている」(ウェブ面担当の池田証志記者)
7月30日の紙面も、右上には「ツイッターの解説」や「皆既日食のネットでの広がり」という誰でも分かるような記事が載り、左下には「逆恨み女子大生ブログ炎上」「サイボーグ009がpixivで2次創作にOK」といった、まるでネットメディアのような記事が並んだ。
ウェブ面創設で既存読者ネット流出の恐れも
新紙面について説明する産経新聞の斎藤勉常務。会見の様子はニコニコ動画で生中継された
新しいメディアであるインターネットを敵視する傾向が強い新聞業界にあって、産経新聞は「ネットとの連携」にもっとも積極的な新聞社だ。
07年10月にはマイクロソフトと提携してニュースサイト「MSN産経ニュース」をスタート。特ダネも含めて最新ニュースをウェブにいち早く流したり、裁判傍聴記の詳報といったネット向けの独自コンテンツを掲載したりしてアクセス数を着実に増加。新聞の販売部数では朝日新聞や読売新聞に水を開けられているが、ネットでは逆に一歩リードしているのだ。
「MSN産経の月間ページビュー(PV)は約4億で、産経新聞の主要5サイト(MSN産経・サンスポ・ZAKZAK・イザ!・フジサンケイビジネスアイ)の合計PVは9億5000万。これらの数字は新聞社系ではトップと自負している」(産経新聞東京本社広報部)
ウェブ面創設も産経らしい取り組みといえるが、ネットに力を入れることが「紙」の新聞の購入につながるとは限らない。むしろ既存読者がネットに流出する恐れもある。今回のウェブ面でも新聞に載った記事はネットにも掲載する予定だが、そうなると「ネットのヘビーユーザーに紙の新聞を読んでもらう」という目的が果たせないのではないか。
そんな疑問に対して、ウェブ面担当の別府育郎編集長は「難しいと思いますよ」と率直に答える。だが、望みを捨てているわけではない。
「紙の良さを知ってもらうために、(ネットのヘビーユーザーが好みそうな)情報が集積されたページがあるというのは便利だと思う。一度に見られる面積が大きいという紙の良さを知ってもらうきっかけにはなるのではないか」
記者会見の会場には、Twitter中継で有名なITジャーナリストの津田大介さんもいて会見の様子を中継して(tsudaって)いた。産経新聞の「チャレンジ」について、津田さんは次のようにコメントしている。
「今日の紙面に載ったTwitterの解説記事は分かりやすく、新聞は新しい話題をかみくだいて説明するのがうまいなと感じた。MSNとの提携やアイフォーン(iPhone)アプリの無料提供など、ウェブで一歩先を行く産経がそのノウハウを生かして新しい紙面を作ったのは、うまい試行錯誤だと思う」