「社会と個人の区別なくなり、すべてがプライベートになっている」
子どものモラルの問題に取り組んでいる東京都多摩市立多摩第2小学校の有田八州穂教諭は、暴力行為が増えてきている理由をこうみる。
「個人の主張や利害ばかりを考えて、子どもを甘やかしています。電車内で平気で着替えをするなど、社会と個人の空間の区別がなくなり、すべてがプライベートのようになっています。だから、我慢できずに、カッとなってハサミを投げつけるなど、すぐキレてしまうんですね。家庭を中心にした社会全体で、規範意識を育てる取り組みが少な過ぎます」
前出の福岡の場合は、どちらかと言えば悪意を持って問題行動を起こしたケースだが、最近は、後先の結果が分からずにしてしまうことも多いという。
同じ福岡県田川郡内の別の中学校では、3年生男子が2009年7月5日、自宅で同級生との罰ゲームがエスカレートして、アイロンを押し当てて全治1か月の大やけどを負わせてしまった。また、宇都宮市では08年11月10日、砂風呂ごっこの遊びをして、中学2年生男子が窒息して重体となり、4か月後に死亡したケースも報じられている。
有田教諭は、次のように指摘する。
「普段仲良く遊んでいるのに、急にからかわれたと怒って、窓枠に乗って飛び降りようとした小学6年生の男の子がいました。最近は、こんな子までと、回りの人がなぜキレるのか分からないケースが増えています。悪質なからかいでなくても、カッと怒ってしまうんですね」
そのうえで、理由などについて、こう語る。
「感情を抑えるすべを、小さいころから習っていないのでしょう。ゲームやケータイの体験ばかりなので、生身のやり取りが苦手な子が多くなっているんです。人に石を投げればどうなるかなどの判断力がなくなってしまうわけです。だから、具体例に即して、判断の仕方を教えなければなりません。学校でも、道徳の時間ばかりでなく、日常の中で子どもたちに問いかけていくことが大事だと思っています」