人に親切にする、ウソをつかない、法を犯さない、勉強をする――。京大が、子どものモラルについて取り組むとして、基本になる4つの提言を発表した。裏を返せば、この4つが守られていないということだ。
「学校や地域でモラル向上を目指す取り組みをしていく」
京大フォーラムのチラシ
京都大学は、子どものモラル低下防止について研究してきた成果を前出の4つの提言として、2009年7月13日に発表した。今後は、これらの提言を「基本モラル」として子どもたちに伝えるよう社会に呼びかけるとともに、フォーラムなどで議論して、具体的な解決策を考えていく。8月29日には、1回目のフォーラムを京大で開く予定だ。
提言は、心理学者などで08年に発足させた「子どものモラルに関する研究委員会」(委員長・西村和雄京大経済研究所長)でまとめた。発表では、京大の松本紘総長も出席して、「子どもたちに何を伝えるかディスカッションしていただきたい」などと期待を示した。
提言の狙いについて、研究委員会の西村委員長は、こう説明する。
「技術力や学力といった面で、日本の競争力を向上させるためには、目的を目指して集中できるようなモラルが必要です。つまり、ウソをついたり、怠けたりしていては、集中できないということです。仕事で、モラルがないと力がつかないし、信用が得られないのと同じことです。その意味で、モラルと学力は一対になっています」
今後は、京大として、4つの提言を元に、学校や地域でモラル向上を目指す取り組みをしていくとしている。学校では、新学習指導要領で導入された道徳の教科で子どもたちに伝えてもらうことを望んでいる。
「小さなころから染み込ませられる」
確かに、学校内暴力や援助交際など、子どもたちのモラル低下がよく指摘される。
実際、文科省の調査によると、小学校での生徒間暴力が2007年度は、前年度より45%も増えて全国で2933件にも達している。また、日本青少年研究所の調べによると、「先生や親に反抗するのは本人の自由」という高校生の回答が、04年発表では5割強もあり、アメリカの3割や中国・韓国の1~2割より多い。
同研究所の調べでは、小学生にウソをつくなとよく言う親は、07年発表では2割と、中国・韓国の4割前後と比べて低い。勉強しなさいとよく言う親は3割と、両国の3~5割より少なくなっている。
親のしつけが悪くなっているのは事実のようだ。だとしても、教育現場が肩代わりすることなどできるのか。
これに対して、京大の研究委員会の西村和雄委員長は、次のように説明する。
「すべての問題を考えるのは難しいですが、基本モラルはたった4つです。繰り返し言うのも難しくなく、小さなころから染み込ませられるでしょう。最低限のモラルを身につけたうえで、様々な問題について考えればよいわけです。イデオロギーや宗教にからまないように、重要なコア部分だけを押さえる必要があったのも、4つにした理由です」
大学自身も、集団強姦事件など学生のモラル低下に直面している。西村委員長は、これについては、「基本モラルが身についていれば、行動に歯止めがかかるはずです。モラルとは、知らずに身を律するものであるからです」と言う。
ネット上では、子どもは大人の鏡だとして、まず大人が変わるべきとの指摘が多い。西村委員長は、「大人も、子どもには4つのモラルが大切と認識するようになれば、変わってくるでしょう。まずモラルを共有すること自体がきっかけになるはずです」と話している。