これまでテレビCMには縁のなかった弁護士事務所の広告出稿量が急増している。背景には、消費者金融などから借金した人が払いすぎた利息を取り戻す、過払い金返還請求と、それを巡る弁護士と司法書士との「依頼人の奪い合い」がある。10数人の事務所で、広告費に月間数千万円をかけているようで、「大企業並みのCM攻勢」(企業の広報関係者)なのである。
1社でスポット月3000~4000本が流れる
世界的な景気悪化で企業が広告費をしぼっている中で、テレビCMの出稿企業が様変わりしつつある。自動車やAV家電などの商品CMの露出が減り、パチンコや通信販売などのCMが増えている。これに、最近目立ってきたのが弁護士事務所。これまでテレビCMとはほとんど縁がなかっただけに、目にした人はちょっとした驚きがあるかもしれない。
たとえばITJ法律事務所は、「貧乏アイドル」の上原美優さんを起用して、こう呼びかける。
「どうしたの? 元気ないよ。」
「借金大変なの? 弁護士に相談してみたら?」
「・・・・・」
「借金の問題はITJにまかせよう。」
また、ホームローヤーズのCMは、
「まさか自分が払い過ぎているとは思いませんでした。納得して返済していたのにお金が戻ってくるなんて、ビックリ! 親切だったし、思ったより、早く解決しちゃいました」
といった具合だ。
こうしたCMの月間スポット本数は、多いところで1社3000~4000本を放映。しかも大都市部から地方都市までをカバーする徹底ぶりだ。CM制作費は1000万円近く、出稿料は月5000万円程度とみられる。広告代理店の関係者によると、「企業のテレビCMが減っている中での出稿だから、当然ディスカウントがある。通常だったら、今の1.5倍はかかる」とみている。
いまが「お値打ち」価格ではあるようだが、テレビCMに新聞・雑誌、電車の車内広告などを合わせると、広告費は「年間予算は数10億円に上る」(前出の広告関係者)という。
司法書士と激烈「お客」奪い合い
かつて、弁護士の広告活動は「弁護士としての品位を落とす」などの理由で禁じていたが、2000年に解禁。当初こそ、新聞やバス・電車の車内広告で見かける程度だったが、それが最近はテレビCMにまで「エスカレート」した。
テレビCMが増えた背景には、消費者金融業者などへの「過払い金の返還請求」がある。多重債務者の救済目的もあって、弁護士らが「払いすぎた利息分を取り戻せる」と債務整理を呼びかけた。
一方で、司法書士との「競争」は激しい。司法書士は、新たに債務整理に参入したこともあってPRに熱心。とくに若手は登記業務の仕事が少ないため、「広告でニーズを掘り起こせて、かつ報酬のよい債務整理に飛びついた」(司法書士)。司法改革で弁護士自身も増えたので、競争はさらに激しさを増している。
ITJ法律事務所のホームページによると、過払い金の返還請求は毎月200件以上に及ぶ。過去1年間の回収実績は1030件、回収金額で4億6000万円に達する。また、ホームロイヤーズの債務整理の相談件数は、約18万件(02年~09年5月累計)にも上る。
ただ、最近は、報酬にからむトラブルや、依頼者の承諾なしに多重債務の任意整理を進めたり、勝手に消費者金融業者(債権者)などと和解したりして、懲戒処分を受ける弁護士が出てきた。宣伝・広告の「行き過ぎ」を指摘する声も出ている。