小売業界2強のイオンとセブン&アイグループが、それぞれプライベート・ブランド(PB)で「第3のビール」を発売することに、ビール業界の衝撃が広がっている。価格は350ミリリットル缶で100円と、メーカー各社の独自ブランド(NB)品に比べ約2割安。だが価格以上に影響が大きいのが、製造元が自社ブランドを重視してきたサントリーだったことだ。国内メーカーはこれまで、PBへの商品供給を「小売業界への屈服」(大手メーカー首脳)との姿勢を貫いてきただけに、大きな戦略転換と受け止められている。
サッポロの反応は微妙
業界他社は表面上、静観を装っている。最大手、キリンの松沢幸一社長は以前から「PBは独自の商品開発の動機付けを損ない、メーカーの力を削ぎかねない」と否定的な見解を示してきた。今回も「自社ブランドを大事にしていく。新たに安い商品を出す予定はない」と強調。アサヒも「PBを出すことはない。NBを育てていく」と話す。
だが、業界4位のサッポロの反応は微妙だ。広報担当者は「今の段階では何とも言えない。動向を見守っていく」(幹部)とだけ述べ、今後の戦略見直しもあり得るとの姿勢を示唆する。
イオンが売り出すのは「トップバリュ 麦の薫り」。ジャスコ、サティ、マックスバリュなどグループのスーパー約3700店舗で7月末から売り出す。同社の販売目標は年間3000万本で、同社で扱う第3のビールの15%を「トップバリュ」で占めることを目指す。同社は約1年前からサントリーとPBの商品化について協議を重ねてきたといい、「計画生産による効率化と、サントリーの工場から直接、当社の物流センターに運び込む直接仕入れで低価格化を実現した」と自信を見せる。
セブンは、コンビニのセブン-イレブンのほか、イトーヨーカドー、ヨークベニマルなど全国1万2000店舗以上で売り出す計画。グループのPB「セブン・プレミアム」から売り出すが、「ビールは嗜好性が強い」としてメーカー名との「Wネーム」を特徴に打ち出す。商品名も「THE BREW ノドごしスッキリ」とサントリーのビール風飲料「FINE BREW」に似せた名称を使い、缶にも社名を大きめに印字するなど、消費者からはPBなのか、NBなのか区別がつきにくい。
PBビールは、そのままサントリーの数字を押し上げる
イオンが6月29日に記者会見を開いて大々的に発表したのに対し、セブンは、イオンの会見の数時間後に急きょ、ニュースリリースを主要メディアにFAX送信したという。イオンの動きを察知し、急きょ、発表したことがうかがわれる。
ビール市場における流通業界2強の販売力は大きい。業界のまとめによると、第3のビールにおける1~3月の各社の市場シェアは、キリンが37.9%、サントリー22.8%、アサヒ21.6%、サッポロ16.9%の順で、8月以降、小売り2社で売られるPBビールの売り上げは、そのままサントリーの数字を押し上げることになる。
以前は「安かろう悪かろう」の印象が強かった流通PBへの消費者意識も変わっている。「100円ビール」が消費者から一定の支持を得る可能性は高いと見られ、今後、四半期ごとに公表されるメーカー別シェアの内訳がさらに注目を集めるのは必至。その帰趨によっては他社も戦略の転換を迫られる可能性がある。