トイレで1人食事する「便所飯」が若者に広がっているという記事を朝日新聞が書いて話題になっている。友だちがいない人と思われたくない、ということらしいが、記事では「広がっている」とする根拠がよく分からず、ネット上では異論が多い。とはいえ、便所飯を告白する若者もいないわけではないようなのだ。
朝日「広がっている」、しかし根拠乏しく
「友達いなくて便所飯?『一人で食べる姿、見られたくない』」
こんな風変わりなニュースを書いたのが、2009年7月6日付の朝日新聞。それも、夕刊の1面トップという大きな扱いだ。
記事によると、便所飯を禁止する謎の張り紙が、少なくとも2008年秋から東大、名城大などいくつかの大学に張られていた。張り紙には、ウサギと洋式トイレのイラストとともに、大きくバツ印がある料理写真が。「監視カメラ作動中」「違反者にはトイレ使用禁止などの処分を行います」と書かれ、最後に大学名が記されている。
この張り紙は、大学の公式掲示でなく、いたずらの可能性が高いことが分かった。が、朝日では、便所飯そのものは、「学生を中心に若者に広がっている」と踏み込んで書いた。学食などで1人食べる姿を見られ、友だちがいない人という烙印を押されたくないのが動機だという。大学教師が2年前に学生から便所飯のことを聞いたとも紹介している。
由来ははっきりしないが、便所飯は、2ちゃんねるなどで05年初めごろに名付けられたともされる。しかし、行為自体は、いつごろからどのくらいあるのかはっきりせず、ウィキペディアの項目からも削除されている。
朝日の記事でも、便所飯が若者にまん延しているという根拠ははっきり示されていない。このため、2ちゃんでは、「一面に書くような記事かよ…」「都市伝説の類いだろw」「あー、朝日釣られちゃったか」とその根拠を疑問視する声が相次いでいる。
「大学生や若いOLから3件相談」と精神科医
便所飯については、朝日の記事に出ていた東大では、「気づいていないと言えなくもないですが、聞いたことがありませんね」(広報グループ)。名城大の総合政策部では、「把握できていませんので、指導もしていません。学食が1人で食べにくいというのはあるのかもしれませんが、具体的には聞いていないです」と話している。
そこで、J-CASTニュースでは、有名大学の学生や新卒者に、便所飯を見たり、聞いたりしたことはないか取材した。すると、ある私立大の3年生男子(21)は、それを否定しながらも、「衝動に駆られることはあります。友だちがいないので、1人で食うのは回りの目線がつらいんです。学食で1人なのは、空いているときだけですね」。また、私立大の新卒者男性からは、「女の子では、聞いたような気がします。1人でランチするのは恥ずかしいというのが理由。女子には、比較的多いのでは」という声もあった。
そして、ランチメイト症候群も唱える精神科医の町村静夫さんからは、実際に診察で若者から便所飯の告白を受けたという話を聞いた。町村さんは、ここ数年は年に1回ぐらいは診察中に話があるといい、2009年に入ってからは、大学生や若いOLから3件ほどあったというのだ。
「以前は、1人のときは、レストランや喫茶店などに逃げて食べる人が多くいました。しかし、最近は、『友人の友人にも見られる』とそれを避けるようなんです。自分と一緒に食べてくれない、でも、1人で食べると『魅力がない人』『弱い人』などと蔑まれる、バカにされるというんですね。特に、女性は仲間に入りにくいようです」
その原因については、町村さんは、こう分析する。
「対人関係の能力が低下しているんです。携帯中毒や過保護などで友だちと遊ぶ時間が少なくなっています。しかし、大学などでは、仲間に入れないという恐怖心があるわけです。カウンセリングなどで正直に話す訓練をするのが大事。そうすれば『仲間に入れて』と言えるようになり、1人でも怯えないで済むでしょう」