長野の名刹「善光寺」で、女性問題などによる住職の辞任要求のゴタゴタが6年も続く異常事態になっている。
住職の女性問題がきっかけ
善光寺御開帳のサイト
7年に一度の行事として、2009年4、5月に行われた善光寺御開帳。それを盛り上げるため商工会議所などで組織された奉賛会の関係者は、こうため息をついた。
「住職さん同士の争いでしょうから、こちらでもなぜゴタゴタが続いているのかよく分からないんですよ」
御開帳が一巡するほどの争いの長期化に、辟易したのかもしれない。
ゴタゴタは、2004年8月に善光寺の小松玄澄貫主(75)の女性問題を訴える匿名の情報があったのがきっかけ。それが、書の販売問題とともに、月刊現代の同年12月号の記事となり、小松貫主の辞任を求める動きになった。
善光寺は、天台宗と浄土宗の共同管理で、天台宗側の本山「大勧進」の住職が貫主と呼ばれる。本山の下に、「一山寺院」と一括される25の寺院が連なっており、一山側が辞任要求の中心になった。そして、ゴタゴタは続いて、ついに、一山代表の柳沢貫一尊勝院住職(70)が09年6月29日、小松貫主の辞任などを求める訴訟を長野地裁に起こした。
訴状などによると、小松貫主は、女性問題などを「ねつ造だ」などと否定したが、05年8月に一山側と和解。2年後に辞任することを口頭で約束した。ところが、07年5月になって、「白紙に署名・押印した」などと和解書を否定した。そこで、一山側は、天台宗務庁に08年7月、罷免を求める申告書を出したが、なかなか結論が出ず、提訴に踏み切った。訴訟では、慰謝料として、2000万円も求めている。
こうした長年の争いぶりに、ネット上でも、食傷気味の声が聞こえる。争いに触れたブログでは、「何故話し合いで解決できない」「ウンザリしました」「仏門も政界と同じだなっ!!」といった書き込みがあった。
「花道を用意しようと、ずるずる」
辞任要求を巡って、なぜ、これほどまでにこじれてしまったのか。
一山側の訴訟代理人をしている中山修弁護士は、こう説明する。
「『生き仏』と崇められる貫主の名誉を考えて、花道を用意しようと円満解決を求めたためにずるずると来てしまいました。辞任を口頭での約束に留めたのは、名誉を考えてあえて文書にしなかったからです。契約書は相手方寄りのきれいごとだけの書面になりましたが、密約があったので和解しました」
ただ、小松玄澄貫主側が「白紙に署名」などとしていることについては、「弁護士立ち会いなので、そんなことをさせるはずがないです」と否定している。
一方、貫主側の橋口玲弁護士は、「訴状の中身を拝見していないので、現時点でのコメントは控えさせていただきます。いずれ裁判を通じて真実を明らかにしていきたいと思っております」とだけ答えている。
とはいえ、争いを表ざたにはさせない努力は続けているようだ。
今回の善光寺御開帳では、一山側は、その前に訴訟を起こすことを決めながら、実際の提訴は御開帳後にずらした。地元の奉賛会から、「紛争を表面化させないように努めてほしい」と要請を受けたからだ。
ただ、一山寺院からは、争いの長期化を懸念する声が出ている。ある住職は、こう漏らす。
「われわれとしては、表ざたになって、信徒の恥になったり、社会に迷惑をかけたりすることのないように話し合いに努力してきたつもりです。しかし、早く善光寺を正常な姿に戻さないと、何万人もの信徒の皆さんに申し訳ないと思っています。坊さん同士でいつまでも争いごとをするなんて、そのイメージや尊厳を自ら傷つけているようなものですから」