小売り大手2社はビール業界でタブーとされてきたプライベートブランド(PB)に参入する。いずれもビールや発泡酒とは別の原料で作られた「第3のビール」で、イオンは350ml 缶を100円で、セブン&アイ・ホールディングスは業態により異なるが、同100~123円で売り出す。これによりビール各社のナショナルブランド(NB)が影響を被るのは必至だ。
イオン、構成比15%を目指す
左から「THE BREW ノドごしスッキリ」、「トップバリュ 麦の薫り」
イオンが100円で売り出すのは、第3のビール「トップバリュ 麦の薫り」。全国のジャスコやサティ、マックスバリュなどグループ31社約3700店舗で2009年7月末に売り出す。
価格は350ml 缶が100円、500ml 缶が145円。ただし、コンビニエンスストア「ミニストップ」などの一部の業態では100円より高くなる可能性がある。
イオンは安さの理由について、1年前から計画して生産効率を上げたこと、メーカー倉庫、卸を通さずに工場からイオン物流センターに直接仕入れ物流コストを抑えたこと、を挙げる。
販売目標は年間3000万本。同社が扱っている第3のビールのうち構成比15%を目指す。
セブン&アイ・ホールディングスもPB「セブンプレミアム」から第3のビール「THE BREW ノドごしスッキリ」を、セブン-イレブン、イトーヨーカドー、ヨークベニマル、ヨークマート、シェルガーデンの5社約1万2000店舗で09年7月下旬から発売する。
セブン-イレブンでは350ml缶を123円で、イトーヨーカドー、ヨークベニマル、ヨークマート、シェルガーデンでは350mlの6缶パックを600円で販売する。
販売目標は年間換算150万ケース(1ケースは350 ml缶24本入)に設定している。
イオン、セブン&アイ・ホールディングスのPBともに、サントリーが製造する。サントリーでも第3のビールは「金麦」など4ブランドあり、「金麦」350ml缶は店頭で139~141円で売られている。広報担当者は、「金麦とPBは中身もコンセプトも違っているので大きな影響はないと思います」と話しているが、「カニバリズム(共食い)が起きないとは言いきれない」ともいう。また価格についても詰めている最中で、このタイミングでの発表に驚きを隠せない様子だ。
「今あるブランドを大事にしていく」
他の大手酒造メーカーの反応はどうか。
キリンビールは、第3のビールを4ブランド出している。主力の「のどごし生」は05年4月の発売から09年6月25日までの累計販売本数が60億本を突破した(350ml缶換算)。同社広報担当者は、「今あるブランドを大事にしていく。新たに安い商品を出す予定はない」とし、強気の姿勢をみせている。
8ブランドを展開するアサヒビール。なかでも「クリアアサヒ」は09年1-5月累計販売数が710万箱(1箱は大びん20本入)で、前年同期比210.5%と伸びている。広報担当者は、「PBを出すことはないし、NBの育成に力を入れていく」とコメント。
「サッポロ ドラフトワン」「麦とホップ」など4ブランドを扱うサッポロビールは、「今の段階では何とも言えない。動向を見て戦略を立てていく」と話していた。
サントリー以外はしばらく様子見となりそうだ。とはいえ安いPBが市場に出回れば、値崩れは必至だ。