「らき☆すた」「クレヨンしんちゃん」「となりのトトロ」などアニメの舞台になった市町村がたくさん存在している埼玉県。その埼玉県が本気になって「アニメで地域おこし」に取り組む。「らき☆すた」の街で知られる鷲宮町はその代表例。この夏は初めて「痛(イタ)車(しゃ)」のイベント「萌フェス」を開く。さらに、「埼玉県アニメツーリズム検討委員会」も設立される、という力のいれようだ。
外国人観光客に有名な場所は「春日部市」?
埼玉県の観光課が主体となり、第1回「埼玉県アニメツーリズム検討委員会」が開かれたのは2009年6月24日。県ゆかりのアニメや漫画を、観光振興や地域振興に役立てるにはどうすればいいか、議論した。委員に選ばれたのは大学の先生や漫画家、動画関係者など。ここでは、アニメの舞台を埼玉にしてもらえるよう交渉するとか、空いた公共施設をマンガ制作ルームとして低額で貸し出す、学校の制服を『らき☆すた』の登場人物の制服にしてしまう、といったアイデアが飛び出した。
埼玉県はこれまでもアニメに情熱を注いできた。08年4月には埼玉県が舞台になったアニメの紹介と、くわしい所在地情報を盛り込んだ観光サイト「埼玉ちょ~でぃーぷな観光協会」を開設。同12月には、埼玉発のアニメクリエイター育成の場としてのサイト「アニメど埼玉」も作った。
なぜ、埼玉県はアニメに注目したのか。埼玉県観光課によれば、県内には風光明媚な場所が少なく、「別の何か」を探していたそうだ。「富士宮の焼きそば」のような、B級グルメ振興案も出た。しかし、決定的だったのが、外国人旅行者が知る日本の有名地だった。ある調査だと、1位が富士山で2位は春日部市。なぜ春日部なのかを調べたところ、アニメの「クレヨンしんちゃん」の影響だったという。「しんちゃん」一家は春日部在住だったからだ。
さらに「らき☆すた」の存在も大きい。作者は埼玉出身で、主要キャラゆかりの神社が「鷲宮神社」。アニメファンが「聖地巡礼」と呼ばれる観光に訪れるようになり、「鷲宮神社」の初詣客は、07年13万人から、09年は42万人に増えた。これでアニメは観光振興や地域振興になると確信したという。
埼玉県を舞台としたアニメは他にも、「エースをねらえ!」「おおきく振りかぶって」があり、人気漫画には「ラフ」「ラストイニング」「行け!稲中卓球部」などたくさんある。
鷲宮町は夏に「痛車」のイベントを開催
県内には他にも、人気スポットが存在する。幸手市には「らき☆すた」の主人公「泉こなた」が住む。同市の商店街ではアニメのキャラクターグッズなどを販売。09年3月には原作者の美水かがみさんが以前住んでいた生家を「きまぐれスタジオ美水かがみギャラリー幸手」としてオープンした。ここは主人公「こなた」の家のモデルになっていて、アニメに登場する部屋などを再現している。
また、自然発生的な現象も起こっている。例えば、コスプレイベントのメッカになった宮代町。「らき☆すた」の舞台の隣町だ。鷲宮町だと、アニメやゲームのキャラクターを車のボディーにプリントした「痛(イタ)車(しゃ)」が全国各地から集まるようになった。同町では09年7月18日に「萌フェスIN鷲宮2009~あなたが痛いから~」のイベントを開催する。地元住民と痛車の交流により、相互理解を深めようという目的だ。「痛車」オーナーの参加費は2000円。町内で使用できる2000円分のガソリン券がもらえる。
同県の観光課では、アニメで町がこのように盛り上がるのも、住民が「オタク」と言われる若い層を暖かく迎えているからだ、と指摘する。
「埼玉はアニメファンに優しい場所。『アキバの次に僕らを受け入れてくれるのは鷲宮』と話す人もいる」
これからも観光振興や地域振興としてアニメを考えていくが、売上げアップだけを狙うのではなく、「共存共栄」の形で進めていくことが重要だと考えているそうだ。