子どもには携帯電話を持たせないように保護者への努力義務を課す――。石川県議会に提出された条例案に異論が出ている。取り上げても、抜け道がいくらでもある、という指摘や、下校後の塾通いや防犯対策を考えると必要だ、という意見だ。実際、明確なルールを決めた上で携帯電話の持ち込みを認めている学校もある。
禁止していた郁文館中ではルールを定め、持ち込み可
石川県議会では2009年6月17日、「いしかわ子ども総合条例」の改正案が提出された。改正案では、携帯電話がいじめや犯罪などの原因になりかねないとした上で、小中学生の保護者に対しては「防災、防犯や特別な目的がある場合を除き、携帯電話を持たせないよう努める」ことをうたっている。条例案は29日に可決される見通しだという。
小中学生の携帯電話の所持をめぐってはこれまで、再三指摘され続けてきた。有害サイトへの誘導や家族間のコミュニケーション不足、依存症への危惧だ。一方で、防犯のために子どもには必ず、携帯電話を持たせるという声もある。
学校法人郁文館夢学園が運営する郁文館中学校(東京都文京区)では、学校での携帯電話の所持に関して、明確なルールを決めたうえで承認している。
同中学校の教頭によると、携帯電話の持ち込みを承認したのは2007年末。ルールとして、(1)フィルタリングには加入すること(2)校舎内では必ず電源をオフにすること(3)学校以外では保護者管理にすること、と取り決めている。保護者にはあらかじめ文書で知らせ、同意を取り付けた。
もともとは携帯電話の持ち込みを禁止にしていたが、携帯電話がこれだけ普及していることや下校後の塾通いや防犯を考慮して、携帯電話が必要な状況にあると判断した。くわえて、以前は生徒が隠し持っていることはたびたび問題になり、それならば、と一律にルール化した経緯もあるという。以来、ルールの徹底を生徒には伝えており、目立ったトラブルにはなっていないという。
「臭い物にはふたではなく、危険性を学校で教えていくべき」
そんな中、携帯電話やインターネット関連の問題について研究している、ネット安全モラル学会は2009年6月21日、石川県議会に対して、条例の否決を求める陳述書を提出した。陳述書では、携帯電話が生活の一部として溶け込んでいることを踏まえ、情報通信に関する知識や経験は児童期から付与することが適切である、とする。
会長をつとめる早稲田大学教育・総合科学学術院の田中博之教授は、こう話す。
「もし仮に、子どもから全く携帯電話を取り上げるようになっても、抜け道がいくらでもあると思うのです。そうして結局、監視が行き届かなくなってしまうのが心配です。それだけでなく、小中学校で禁止となっていて、高校生になってはじめて所持したとしましょう。その頃になって、安全に利用できるのでしょうか。知識がないためにかえって、いい加減な利用に拍車をかけるのではないかと思うのです」
そのためには、臭い物にはふたをするのではなく、実際に利用しながらも、携帯電話の危険性をもっと、学校教育で教えていくべきではないかというのだ。
一方、デジタル・メディアが教育上与える好ましくない影響についての調査を行っている、NPO法人青少年メディア研究会の理事長・下田博次さんは、今回の石川県の条例案について「条例で(携帯電話所持禁止に)踏み込むという姿勢を示したことがよかった。実効性は別だが、地方自治体が(小中学生の携帯電話利用への)危機感を持っている証明だと思う」と指摘する。
「携帯電話を持っているからネットいじめ、出会い系サイトの問題が成立しているのが現状です。これらは当然、携帯電話を持っていなければ、成立しない問題。こうした事件が携帯電話の普及とあいまって増していることを考えれば、私は、携帯電話がどんなに優れた機器であろうとも、大人が管理、指導できないものを子どもには渡さない方がいいのではと考えます」