かつて全国で盛んに唱えられていた「カジノ特区」構想が、長崎県佐世保市のテーマパークで実現化に向け進行し始めた。これまでは刑法との関係を理由にことごとく却下されてきた構想なのだが、2009年に入って、鳩山邦夫総務相(当時)が実現に向けて前向きな姿勢を示し、機運が高まっているのだ。
6月中に内閣府に提案する
東京都の石原慎太郎知事が「お台場にカジノを」と提唱したのは1999年のことだが、2002年に政府が構造改革特区を募集した時は、宮崎県などから7件もの「カジノ特区」の提案が寄せられた。ところが、いずれの提案も「カジノは刑法が禁じている『賭博』にあたる」として政府が却下。それ以降、運動は下火になっていた。
そんな中、日本郵政の問題で注目を集めた鳩山邦夫氏の発言をきっかけに、再び「特区」への機運が高まっているようなのだ。徳永久志議員(民主)が、09年4月21日の参院内閣委員会で、特区制度について質問する中で、カジノ特区についても触れ、
「議論を進めていってもいいのでは」
と呼びかけた。これを受けて、当時は総務大臣だった鳩山氏は、自身が一時期「カジノ議連」の会長を務めていたエピソードとともに、
「正直言って、カジノというのはやりたい、観光産業としてやれたらいい」と、前向きな姿勢を示したのだ。
「刑法がかかわるからというので門前払いをするのではなくて、取り込んで議論はすべき」
これを好機ととらえたのが、観光客減少に悩む長崎県佐世保市だ。同市を08年に訪れた観光客の数は前年比7.5%減の約448万2000人。夏以降の景気後退や円高が響き、4年ぶりの減少となった。アジアからの観光客が多いテーマパーク「ハウステンボス」(HTB)も同様で、やはり前年比で9%減少している。
そのHTBを「カジノ特区」にする計画を内閣府に提案することになった。この計画は、福岡・長崎・佐賀3県の企業約200社でつくる「西九州統合型リゾート研究会」が佐世保市や佐世保商工会議所とともに6月中に提出することになっており、HTB内にカジノ設置を認める特別法を設けることが骨子だ。
年に100億円がカジノで消費されると試算
佐世保市が作成した提案概要によると、HTB内に約500億円を投じてカジノホテルを建設。ただし、暴力団関係者の介入や周辺の治安悪化・ギャンブル依存症の拡大を防ぐという目的で、利用できるのはHTBを訪れた外国人観光客に限られる。それでも、長崎県を訪れる外国人観光客(95万人)の2割と「ホテル建設効果」による2万6000人を合わせた、年22万人の利用を見込んでおり、年に100億円がカジノで消費されると試算している。
また、経済効果は初年度1000億円、2年目以降は年170億円を見込んでいる。
提案では
「売り上げの一部など新たな税収が確保(収益課税、カジノ設置課税、ライセンス課税など)され、それらを地域活力の基盤強化とし、様々な活用が期待できる」
とあり、佐世保市としてもカジノを地域活性化につなげたい考えで、HTB広報室では、カジノが実現した際の方向性については
「アジアの富裕層が主なターゲットになるのでは」
と話している。
内閣府は提案を受理した後、2~3か月で判断を示す見通しで、計画が認定されれば、佐世保市側は具体的な特区申請の作業に入る予定だ。