ネットサービス「ツイッター(Twitter)」が、マスコミより早く、イランの生々しい衝突ぶりを伝え続けている。16歳の美少女惨殺のビデオ情報は、すぐにツイッターに上がり、世界を震撼させた。速報の威力は、マスコミをも不要にしてしまうのか。
米CNNも、ツイッターを後追い
「ネダは目を見開いたまま、息絶えた。それは、目をつぶってやり過ごそうとする我々を恥じ入らせる」
これは、ツイッター上につぶやかれた一投稿者のため息だ。ネダとは、イランで惨殺されたとされる16歳の少女の名。
米CNNが2009年6月21日、ツイッター上の情報として伝えたところでは、大統領選を巡って衝突が続く首都テヘランで、ネダは改革派によるデモを見ていた。そこにいきなり、政府を支持する民兵組織バシジが発砲したというのだ。
ネダは胸を押さえて仰向けに倒れ、2、3人の男性が必死に介抱する。しかし、血だらけの顔がアップになると、周囲から泣き叫ぶような悲鳴が…。
ツイッターの情報をもとに、ユーチューブにネダとされる動画がアップされ、悲惨な現場の状況を伝えている。ただし、CNNによると、情報の事実関係は確認できないという。
イラン政府は、大統領選が終わった13日から、インターネットの接続を全面的に制限。改革派などによる政府批判を封じ込めようとした。マスコミ統制も始め、内外の記者を逮捕したり追放したりした。しかし、改革派側は、ネット上のアクセス経路を変えるなどして対抗し、特に速報性のあるツイッターを活用して世界に情報を発信し続けた。
CNNも、デモ発生直後の報道が不十分だったと批判され、ツイッターの情報を繰り返し報じるようになった。米国務省は、その役割を認め、16日に予定されていたツイッターの保守作業を延期するように要請したと報じられている。ツイッター側は、要請受け入れを否定しているものの、日中のサービスを維持するとして、イラン時間の17日未明に作業を延期している。
リアルタイム性があり、マスメディアに近い
ネットサービスには、SNSのフェイスブックなどがあるが、なぜツイッターがこれほど支持されているのか。
メディアジャーナリストの津田大介さんは、その理由についてこうみる。
「ツイッターは、携帯でも使いやすいほど設計がシンプルで、140字以内でどんどん投稿できます。フェイスブックなどよりリアルタイム性があり、マスメディアに近いということです。また、ユーザー数が世界中で増えていることがあります。悲惨な状況を多くの人に見てもらえるのは強いですね。アメリカで政治的な議論をしてもらうことで、外圧をかけてもらいたいという願望もあるのではないですか」
津田さんは、2年前から会議中などの情報もツイッターで発信しており、「tsudaる」という言葉まである。すなわち、イランの人たちも、既存マスコミに代わって、世界中にリアルタイムでtsudaることができるわけだ。
その速報性は、メディアを変える可能性がある。例えば、米ハドソン川沖で2009年1月15日に航空機事故があったとき、最初に情報発信したのが脱出した乗客が使ったツイッターだった。
とすると、もう速報メディアはいらなくなるのか。
これについて、津田さんは、やや否定的だ。「デマもツイッターで悪用されれば、真実と受け止められてしまう可能性があります。情報の信頼性をどう担保するかが課題で、現状では検証するすべはありません。それは、今のところマスメディアがフォローするしかないでしょう。ツイッターの速報を、真実かどうか掘り下げるべきということです」
もっとも、ジャーナリストや国会議員などの関係者が、ツイッターで発信する意義はあるという。「ネットユーザーは、今起きていることを知りたいと思っています。これはブログではなかなかできないことで、ツイッターなら武器になります。これで新しい報道などのあり方を模索するのも面白いと思います」