1杯250円という安いラーメンを販売していた牛丼チェーンの吉野家ホールディングスが、ラーメン事業から撤退する。讃岐うどんの「はなまるうどん」、寿司の「京樽」、宅配中華「上海エクスプレス」なども展開し、チェーン事業に長けている同社がラーメン事業に失敗したのはなぜか。
「値段も味も中途半端になった」
吉野家ホールディングス(HD)は、完全子会社のアール・ワン(東京都新宿区)がラーメン事業から2009年8月末で撤退すると6月18日に発表した。
商品、サービスの向上に取り組んだが抜本的な改革にはならず、原価の高騰、消費の低迷もあって撤退を決めた、と吉野家HDは説明している。
09年2月期のラーメン事業の売上高は17億8000万円、当期赤字は14億2500万円。
アール・ワンは07年9月に民事再生法の適用を申請していたラーメン一番本部(大阪市)からラーメン事業を譲り受けた。ラーメン一番本部の「びっくりラーメン一番」は、ラーメン一杯180円の激安店として知られていた。
譲渡後、およそ200店あった店舗を58店に減らし、業態を「びっくりラーメン」のほか、「麺屋五条弁慶」「中華そば一番」などにわけた。また原材料の高騰を理由に、びっくりラーメンは180円から250円に、麺屋五条弁慶はラーメン1杯400円、と全体的に値上げした。
しかし、この値上げがよくなかった。
リニューアル直後に麺屋五条弁慶に行ってみたという男性は、「つけ麺 二玉」(580円)を注文した。
「出汁は薄いが味が恐ろしく濃いつけ汁。ハムみたいなチャーシュー。割とコシのある麺はそこそこ美味かった。半熟の味玉も悪くはない。しかし、580円出すなら別の店に行くよなあ」
と08年3月のブログ「ビア二郎」に書き込んでいる。
「まさにカップラーメンの麺、即席麺とでもいうのでしょうか? これには少しがっかりしました」
という人もいる。
要は、「値段も味も中途半端になった」ということらしい。
吉野家HDは主力の牛丼チェーンのほかに、讃岐うどんの「はなまるうどん」、寿司の「京樽」、宅配中華「上海エクスプレス」などのチェーンも展開している。チェーン事業に長けているにもかかわらず、ラーメンが失敗したのはなぜなのか。
立地に問題があった?
ラーメン店には厳選した素材を使い、スープ、麺にこだわった個人経営が多く、大型チェーンは少ない。
そんななかで着実に店舗を増やしているのが、ラーメン1杯390円で提供している「日高屋」だ。09年5月末時点で231店舗構える。既存店の売上高は09年5月が対前年比0.8%減と微減したが、3月は同比0.8%増、4月は同比1.1%増と健闘している。
価格帯は吉野家HDとさほど変わらない。明暗を分けたのは何か。
日高屋を運営するハイデイ日高の営業担当者は、「立地に大きな違いがある」と指摘する。
同社の基本戦略は駅前の1等地の1階部分に店を出すこと。一方の吉野家HDはほとんどがもとの店を使っていて、「2等地が多い」。成功しているファーストフードのチェーンは、駅前に店を出しているという共通点があるそうだ。
もう1つ、失敗の理由として考えられるのは、夜の売り上げが少なかったのではないか、という点。昼はほとんどの客がラーメンしか頼まないため、サイドメニューや飲み物を注文する夜が稼ぎ時になる。日高屋がアルコールと炒め物、定食類にも力を入れているのはそのためだ。
「たくさんメニューを用意すると効率が悪くなりますので、適度に、かつ自宅では調理しづらいものを中心に揃えています。誰でもできるようで、ラーメンのチェーン展開は難しいんです」