スタートしたばかりの裁判員制度をめぐり、カトリック教会が「司祭は裁判員候補者に選ばれても辞退すべきだ」との方針を打ち出した。他にも、死刑に反対している仏教の宗派が、制度の見直しを求める決議をしているという例もある。一方、「個々の判断に任せる」としている宗派もあり、対応はさまざまだ。
「過料」を支払っても、不参加勧める
2009年5月にスタートしたばかりの裁判員制度をめぐっては、国民の理解が得られていないというのが現状だ。例えば産経新聞とFNN(フジニュースネットワーク)が5月17日に行った世論調査によると、裁判員に選ばれたとしても、裁判に「参加したくない」と答えた人の割合は45.8%に達している。これは、「参加したい」(16.2%)「義務なので参加する」(37.2%)を大きく上回る数字だ。
また、宗教関係者からは、「人を殺すことになる死刑判決を出すことはできない」といった声もあがっていた。
そんな中、日本カトリック司教協議会は2009年6月18日、裁判員制度に関する公式見解を発表した。その中で、一般信徒については「各自がそれぞれの良心にしたがって対応すべき」としながらも、司祭や修道者については、候補者として通知された際には、調査票・質問票に辞退の意向を書いて返送することを勧めた上で、それでも裁判員に選ばれてしまった場合は「過料を支払い、不参加とすることを勧める」としている。
これは、カトリック教会法で「聖職者は、国家権力の行使への参与を伴う公職を受諾することは禁じられる」と政教分離の原則を定めていることによるものだ。
プロテスタントは静観の構え
その他の宗教・宗派は、どのような対応なのだろうか。
同じキリスト教でも、プロテスタントの日本基督教団では、
「公式には何も決めていませんし、特に決める予定もありません。各自の判断に任せています」
と、静観の構えだ。
一方、仏教に目を向けてみると、死刑制度に反対の立場を取っている真宗大谷派では、6月9日、制度の見直しを求める決議を採択。決議では、
「もし私たち真宗門徒が、死刑事件に裁判員として関わったとき、自らは死刑の判断をしなくとも、死刑判決に関わってしまったという心の傷は、一生自らを苦しめることになります」
などと訴えている。
また、国内にイスラム教信者をとりまとめるような組織は存在しないが、イスラム文化などについての理解を深める活動をしている「イスラーム文化センター」が開設している「イスラーム相談室」に聞いてみたところ、
「教え(の内容)や文化についての窓口なので、裁判員制度への対応については分からない」
との回答だった。
こう見ていく限りでは、一般の信者に対して何らかの具体的な指示をしている宗教・宗派は未確認で、各信者は、それぞれに判断を迫られているのが実情だ。