トヨタのお膝元・愛知県名古屋の経済は苦しい。オフィスビルの空室が目立ち、地価は大幅に下落。生活保護世帯も増加傾向だ。2008年秋まで「絶好調」が続き、モテモテだっただけに、その落差が際立つ。「トヨタショック」から立ち直るのはいつなのだろう。
「名古屋経済はまさに負の連鎖」
愛知県名古屋市では、オフィスビルの空室が目立つ。三鬼商事名古屋支店の発表(09年5月8日)では、「名古屋ビジネス地区」の4月末時点の空室率が11.57%。前月比1.48ポイント上昇した。08年10月の時点では空室率は7.85%だったが、景気悪化を受けて、右肩上がりで上昇したかっこうだ。
こうした状況について、事務所・店舗等のテナント仲介を専門とするビルプランナー(愛知県名古屋市)の代表・山城徹也さんは、「テナント企業のオフィス縮小は、人材派遣業や営業系の会社に多い。現状家賃の3分の1ぐらいのところへ移転。あるいは、本社が名古屋ではない場合は撤退している」と指摘する。
もっとも、オフィスの縮小傾向は08年4月から徐々にあったといい、秋の世界同時不況以後、顕著になった。名古屋市内中区や東区などのビジネス地区に新築された500坪以上のビルはガラガラだという。100坪以上のビルでも満室だった状況が一転、ぽろぽろと出て行く状況のようだ。
山城さんは、先行きは楽観できないともらす。
「(借り手がつかない状況は)今期に入ってからが顕著で、非常に厳しい。リストラが一層進んでいるようだ。(賃料を)安くしているのに借り手がつかない。今後もひどくなるとしか思えません」
くわえて、国土交通省が2009年5月27日に発表した「地価動向報告」(地価LOOKレポート)でも、名古屋圏の地価の大幅下落は目立っていた。名古屋では4地点で下落率が12%以上を記録した。
「土地の値段は最高値だった2年前に比べると、半値近くだが買い手がつかない。これは、様子見の部分があることに加えて、融資がつかないためだろう。もっとも、仮に融資が下りてビルが建設できても、借り手がつかないことは容易に想像できる。だから、建設予定も立たず、ゼネコンにも仕事がなく……名古屋経済はまさに負連鎖だ」(前出の山城徹也さん)
「3月には景気の底を脱却」?
一方、名古屋市の生活保護世帯が2009年4月には、2万5257世帯になった。前年に比べると3600世帯以上増えた。中でも、母子家庭をのぞく、64歳以下の現役世帯では、1850世帯だったのが3766世帯に増加したという。また、これを裏付けるかのように、愛知県労働局が2009年5月29日に発表した「最近の雇用情勢」では、4月の有効求人倍率は0.52倍だった。一方で、新規求職者数は前年同月比63.8%増加している。
これまで名古屋経済は、自動車産業で支えられていた。ほんの1年前までは「元気な名古屋」ともてはやされていたのも、自動車の輸出増に起因していた。その状況が昨秋以降、変わってしまった。「元気な名古屋」を取り戻せるのはいつか。名古屋経済に詳しい共立総合研究所の主任研究員・河村宏明さんはこう話す。
「3月には景気の底を脱却したと見ています。自動車メーカーでは在庫調整が一巡してきましたし、トヨタ『プリウス』の投入もあり、自動車がある程度売れてきた。部品工場ではフル稼働に近いと聞いています。しかし、設備投資には回らず、(名古屋経済)全体の底上げとなると、まだまだ先が見えません」