「性的な噂話を流された」「今日はデートなのかと聞かれる」「男性社員から執拗に体を触られる」――。男性からのこうしたセクハラ相談が増えているという。
男性からのセクハラ相談は621件
厚生労働省によると、男性からのセクハラ相談は2007年度には517件だったのが、2008年度には621件と104件増えた。たとえば、徳島県労働局の場合、08年度には49件の「セクハラ相談」が寄せられている。そのうち、男性からの相談が10件あった。
具体的には、過去に付き合っていた同じ会社の女性が、別の女性社員に性的な噂話を流した。しゃがんでいる女性社員のスカートをのぞいたかのような言われを受けて困っている。ある男性社員から執拗に体を触られる。頭髪の薄さについて悪口を言われ続けている――このような内容だった。徳島県労働局によると、中にはいじめに近い嫌がらせがあり、会社を指導したケースもあったそうだ。
企業に向けた啓発活動を行っている財団法人「21世紀職業財団」でも、男性のセクハラ相談が2~3年前から増えたと感じている。雇用均等事業部の担当者によると、具体的には次のような事例があるという。
――いつまでも独身の若手社員に対して、男性上司が妻をもってこそ一人前だという話を執拗に言い続けている。中高年女性が多いある職場では、若い男性社員が用事で定時退社する際、「今日はデートなのか。2人の関係はどこまで進んでいるのか」などと執拗にはやし立てられた。そのほかには、身体的特徴や頭髪に関する暴言もある。
もっとも、こうしたやりとりの受け取り方は、個人差のあるデリケートな問題で、加害者は被害者の気持ちに気付かないことは多い。21世紀職業財団では寄せられた相談に対して、納得のいく解決方法を話し合うなどして対応しているという。
男性からのセクハラ相談は全体の10%
ところで、なぜ男性からの相談は増えたのか。前出の担当者によれば、男女雇用機会均等法が2007年度に改正され、男性に対するセクハラも対象となった。それが浸透しはじめたことが考えられるという。
「また、セクハラに対する意識が変わってきたことも挙げられます。女性に対するセクハラが社会的に認識されている中、同じようなことは男性にもあるよ、と。ただ、こうした話は以前から、潜在的にはあったと思います。これが意見として表に出てきたということもあるでしょう。1人1人が人権を認識する時代になってきたとも言えそうです」
一方、WEBサイト「セクハラ110番」を運営する、特定非営利活動法人セクシャルハラスメント協議会の代表・中田孝成さんは、こう話す。
「男性からのセクハラ相談は全体の10%です。相談内容は大きく分けて、(1)自分の言動がセクハラではなかったか(2)自分がセクハラの加害者として疑われている(3)セクハラを受けたというものです。いまのところは謝罪で済んでいるケースが多く、専門家を紹介する深刻な事案は少ないです」