足利事件を再審・無罪にする可能性を大きくしたDNA鑑定。20年前の当時に比べ、何兆分の一ものすごい誤差の範囲で個人を特定できるというのだ。親子鑑定でも、本当の父親ではないことが分かるなど、影響が大きくなっている。
数兆分の一の誤差で個人を特定
「同じDNA鑑定なのに、どうして違うのか」。こう疑問を持った人も多かったかもしれない。
栃木県足利市で1990年に4歳の女児が殺害された「足利事件」は、DNA再鑑定の結果、犯人は別にいる可能性が高まった。女児の下着に着いていた体液について、精度の上がった最新のDNA鑑定を行ったところ、受刑者の菅家利和さん(62)のものではないと結論づけられたのだ。
DNA鑑定は、1980年代にイギリスで開発され、日本では、89年から犯罪捜査に導入された。当時とどれだけ精度が上がったのか。
関西医科大の赤根敦教授(法医学)の話。「同型のDNAになる確率は、当時は1000人の1人のレベルでした。しかし、現在では、数十億分の一から数兆分の一のレベルで、同一人物か別人かが判断できます。一卵性双生児以外なら分かりますね」
その理由については、赤根教授はこう言う。「当時は、遺伝子の知識が乏しく、1~2種類しか調べていませんでした。それも、目で見て型を判定したわけです。だから、違う型を誤って判定することがありました。現在は、遺伝子が細かく分かって、15種類ほどを、機械で調べています。1種類では同じ精度ですがそれを掛け合わせるので、高い精度で確実に型を調べられるわけです」
今後は、警察で犯罪者のDNAデータベースが構築され、前科があればすぐに犯人が分かるようになるという。
足利事件と同じ鑑定方法を使ったケースとして、福岡県飯塚市で1992年、女児2人が殺された「飯塚事件」がある。死刑判決を受けた被告は、無罪を主張していたが、08年10月に死刑を執行されている。このケースでは、DNA鑑定できる資料が残っていなかったが、残っている事件なら、鑑定結果が覆る可能性もありそうだ。
親子鑑定も10~20万円で可能
親子鑑定でも、最新のDNA鑑定は、威力を発揮している。
イギリスでは、15歳の女の子が2009年に産んだ女児の父親は、13歳の男の子ではないかと話題になったことがあった。しかし、デイリー・ミラー紙が3月26日付記事で、DNA鑑定の結果、男の子の子どもではないことが分かったと報じている。また、日本でも、北朝鮮の拉致問題で、キム・ヘギョンさんが拉致された横田めぐみさんの娘であることがDNA鑑定で分かっている。
DNA鑑定のビジネスも、徐々に浸透してきたようだ。
「昔は、血液型から親子関係を調べていましたが、今は、DNA鑑定で高精度に調べられるようになっています。業者も、10~20社以上あるのではないでしょうか。アメリカの鑑定機関などを利用しており、10~20万円でやってもらえるようです」(赤根教授)
食品偽装が問題になったことから、食品や農畜産物にもDNA鑑定が広がっている。例えば、埼玉県では、コメ銘柄の偽装問題があったことから、09年6月初めに、スーパーなどの店頭でコメや食肉の抜き打ち検査をすることを明らかにしている。
ただ、赤根教授は、DNA鑑定は万能ではないと警告する。
「鑑定に使う資料の状態が悪ければ、結果を誤りかねません。以前、被告の弁護士から鑑定結果が正しいか相談がありましたが、2人以上のDNAが混ざっていて、それもごく微量でしたので、正しいと断定できませんでした。資料もきちんと保管しないと、腐って分解してしまいます。DNA鑑定だけの証拠は、慎重に扱わなければならず、過信するのは危険です」