大手旅行会社のジェーティービー(JTB)が、上場企業の株主総会受託ビジネスに乗り出している。会場の確保や警備員の配置、株主へのおみやげの用意と、株主総会をアレンジ。利用する企業も増えている。しかし、これはJTBが手がける新ビジネスのほんの一部でしかない。その事業は、薬用ハンドジェルの開発や法人向けの教育プラグラムの提供、なんと声優やタレントの養成にまで広がっていた。
本業以外で安定収益の確保狙う
JTBが力を入れている株主総会の受託ビジネスは、2006年の改正会社法の施行によって、株主総会の開催場所がこれまでの本社所在地以外でも可能になったことに注目した。個人株主の増加もあって、それまで使っていた会場が手狭になったことや、企業が趣向をこらすようになりイベント性が強まったことで、総会をホテルや貸しホールなどで開催するニーズが高まってきた。
株主総会の会場となるホテルや貸しホールなどとは、本業の旅行業で長年培ってきた関係がある。会場の確保や設営はお手のものだ。2008年度は25社、約2億5000万円を受託。09年度はこれを10社程度、4億円に増やす計画。受託企業についてJTBは詳細を明らかにしていないが、まもなくピークを迎える株主総会を前に、利用は増えているようだ。
2009年5月29日にJTBが発表した09年3月期決算の売上高(連結ベース)は、1兆2760億円。このうち旅行業以外の売上高は1054億円で、全体の8.3%を占める。主には出版や印刷、広告業、ホテル業だ。
JTBが「副業」に力を入れる背景には、世界的な景気悪化による旅行業の落ち込みが大きいためだ。最近では新型インフルエンザ、08年には燃油サーチャージの高騰などによって、ツアーのキャンセルが相次いだ。好不況の影響を受けない、安定的な収益を確保するための「財源」が必要になった。
水がいらない薬用ハンドジェル開発
JTBは、2008年12月に朝日新聞と提携してカルチャーセンター事業を共同で手がけることを発表。09年5月には、任天堂の携帯ゲーム機「ニンテンドー DSi」向けに旅行ガイドの「るるぶ」の内容を配信するサービスを開始。すでに東京編と京都編を配信していて、「他の観光地も順次実施していきたい」(広報室)と話す。
さまざまな企業とコラボしながら、矢継ぎ早に事業を多角化するJTBだが、その中心的な存在が「JTB法人東京」(JTBの100%子会社)だ。
09年2月、同社がメディカルコスメのドクターシーラボと共同開発して発売した薬用ハンドジェルは、もともと海外旅行で食事する際に、お手ふきやおしぼりの代わりに手をきれいにするものとして考案された。それが、このところの新型インフルエンザの拡大で「予防になる」と評判になった。
殺菌と保湿に優れ、機内の気圧にも考慮してつくられていて、製造をドクターシーラボ、JTB法人東京が商品企画から販売、プロモーションまでを一手に手がけた。薬用ハンドジェルの商品化についてJTB広報室は、「法人東京の社員がドクターシーラボの社員を偶然知っていて、ふだんの付き合いの中からアイデアが閃いたようです」と話す。
JTB法人東京は他にも、法人向けの教育プログラムの提供や地域活性化のためのイベント企画、また声優やタレントの養成所である「JTBエンタテイメントアカデミー」を運営する。
「旅行業を軸にしながら、社員一人ひとりが企業の効率化の手伝いを、何かできないかと考えています」(JTB広報室)
まだまだ、新たな事業が広がりそうだ。