大手銀行6グループの2009年3月期連結決算は最終損益の合算が約1.2兆円という巨額の赤字に沈んだ。赤字は03年3月期以来6年ぶりの規模。金融危機による株価急落と不良債権増大が業績を直撃した。さらに体力低下をカバーする大規模な増資にも追われ、「守りの経営」を余儀なくされそうだ。
10年3月期の黒字回復目指す
業績悪化に拍車をかけたのが邦銀特有の株式持ち合いだ。00年代前半の株価低迷で大手行は持ち合い解消を進めたが、その後に株価が持ち直し、取引先から買収防衛に向けた「持ち合い維持」の要望が高まると解消の動きは停滞。米欧金融機関よりも保有株が多く、危機の震源地でもないのに損失が膨らんだ。
この結果、最終損益で4位が定位置だった、りそなホールディングス(HD)が大幅減益ながら最終黒字を確保し、初の首位に浮上する「珍現象」が起きた。03年の実質国有化後、株価変動リスクの大きい保有株式の削減を進め、減損処理が少なかったためだ。りそなHDの細谷英二会長は「社内外から相当な反発があり、どこまで減らすか悩んだが、決断は間違っていなかった」と述べた。
他行も持ち合い削減を進める考えを示したが、「取引先との関係で簡単にはいかない。実質国有化された、りそなとは立場が違う」(メガバンク幹部)と及び腰しだ。各行は「減損処理は一巡した」と判断し、そろって10年3月期の黒字回復を見込むが、米金融不安が再燃し、さらなる株安に見舞われると、回復シナリオが揺さぶられかねない。
さらに、危機再発防止のため、「資本の質」を問う動きが米欧で広がっていることも、大手行を増資に駆り立てた。
銀行の自己資本は普通株や優先株で構成されるが、優先株が高配当を払う必要があるのに対し、普通株は無配や減配で損失を吸収する「緩衝材」となる。このため「普通株の方が質は高い」との指摘が出てきた。米金融当局の特別検査の基準は、自己資本に占める普通株の比率だった。
新たな国際基準に神経尖らす
一方、邦銀は普通株の比率が低い。普通株で増資すると、1株あたりの利益が薄まり、株価下落の懸念があるからだ。だが、自己資本比率の国際基準見直しの協議は09年秋以降に本格化する。大手行は「公的資金でかさ上げされた米銀との比較は納得できない」と不満を募らせながらも、「米当局の基準が国際基準に盛り込まれる可能性が高い」と慌てた。株価下落も覚悟で、三井住友が最大8000億円、みずほも最大6000億円という大型の普通株増資を急きょ表明した。
増資は貸し出し余力を高め、経済を前向きに動かす材料となるはず。だが、今回は守勢に回っての増資だけに、大手行が新たな国際基準をにらんで、自己資本比率を維持しようとすれば、融資の圧縮に動かざるをえず、「貸し渋り」をさらに悪化させかねない。