政府が策定を進めている「宇宙基本計画」が、思わぬブーイングに見舞われている。この計画自体は、情報収集衛星を増強したり、有人での月探査を目指したりする意欲的なものなのだが、「二足歩行ロボットでの月探査」という項目に、批判が続々と集まっているのだ。
「お金をかけて何がしたいかわからない」
日本の宇宙開発についての基本方針を定めた「宇宙基本法」が2008年8月に施行され、これに基づいた国家戦略「宇宙基本計画」の策定が進められている。麻生首相が本部長を務める「宇宙開発戦略本部」が案をまとめ、09年4月28日から5月18日にかけてパブリップコメント(パブコメ)が募集された。
各地から寄せられたパブコメでやり玉に挙がっているのが、「月面2足歩行ロボット」。これは3月6日に行われた専門調査会の場で、専門調査委員のひとりである元宇宙飛行士の毛利衛氏が提案したもの。毛利氏が提出した資料では、国家目標として「日の丸人型ロボット月面歩行計画」をかかげ、「有人・無人の議論を超えた第3の道」「日本独特な有人宇宙開発の提案」などどうたっている。
計画案では、2020年頃に日本独自でロボットを活用した月の無人探査、25~30年頃に宇宙飛行士とロボットが連携した有人月探査を目指しており、「2足歩行ロボット」も、その中の案として出てきたものだ。計画案には458人から1510件のパブコメが寄せられたのだが、そのうち約80件が「2足歩行ロボット」に集中。その中には、
「月や火星・金星への探査計画に、人は遅れ(原文ママ)なくとも耐環境型の自立ロボットを帯同させることも日本独特の研究といえます」
と、好意的なものもあるが、ほとんどが批判的なものだ。その中には、
「唯一新しいのは、ニュースなど、マスコミが大々的に報道した『二足歩行ロボットを月へ』という部分だが、これに一体何の意味があるのか?そもそも月に着陸する必要がどこにあるのか?というところからして、必要性、国家戦略が明確にはなっていない」
「『月面上ロボットに2足歩行型』はナンセンス。お金をかけて何がしたいかわからない。それでは子供たちはわくわくしませんよ。大人の自己満足以外の何物でもない」
といったものがある一方、
「二足歩行ロボットによる探査が提案されているが、そもそも月面は地球とは重力、温度環境、表層環境などが全て異なる世界であり、そういった世界に二足歩行のロボットを持っていったとしても、できることはきわめて限られている」
「現在の日本の二足ロボット技術の優位が、宇宙環境(真空、極端な環境温度変化、放射線、無重力など)ですぐ役立つものではなく、むしろ新規の高度な技術開発が必要」
と、「日本が得意とされる2足歩行ロボットの技術も、宇宙に行くと役に立たない」という趣旨の主張も散見される。
有人探査では「人間に近い形状が意味を持ってくる」?
戦略本部では、これらの反発について、発表資料の中で
「多数ご意見をいただいておりますが、我が国が得意とする特徴あるロボット技術であること、将来の有人探査を視野に入れたときに、人間に近い形状が意味を持ってくること、また、これが実現できれば、高度なロボット技術の実現と宇宙技術の融合が図られるなど大きな技術的波及効果が期待され、本来の探査の成果と合わせて、我が国の優れた技術力をアピールできるという点で宇宙開発戦略専門調査会にて肯定的に議論が行われております」
と反論。「2足型」が人と共同作業する時に強みを発揮すると考えている様子だ。
パブコメでの指摘を反映させた計画案は5月26日に開かれた専門調査会で大筋で了承され、6月上旬の会合で正式決定される。
戦略本部では、
「この種のものに寄せられるパブコメは、せいぜい2桁か、百数十件程度。4桁は、ちょっと見たことがありません」
と驚いている。パブコメを寄せた人の属性については非公表だが、パブコメのひとつには
「概観すると、宇宙関係部局(端的にはJAXA)のやりたいこと、進めたいプログラムの希望、等々が大体記述されていて、有人宇宙飛行以外は現場の声が反映していると思われる。この種の計画書に書いてもらえたのは関係者として慶賀すべきことだと感じる」
というものもあり、関係者と思われる、技術的に詳細な記述がされたものも多い。