2009年5月25日号の日経ビジネスが「物欲消滅」という刺激的なタイトルの特集記事を掲載した。確かに、不況のせいもあり、消費者の購買意欲は低下している。しかし、本当にモノを買いたいと思わなくなったのか。
40%が「モノを買う意欲が減った」
モノが売れず、企業が販売促進に頭を痛めるなか、日経ビジネスは「物欲消滅」と題して、モノを持たない生活が広がっていることなどを指摘し、企業の「買わない消費者」攻略法を特集した。
日経BP社と日経BPコンサルティングが行ったウェブアンケートによると、「モノやサービスを買おうという意欲が以前と比べて減った」と答えた人は、全体(有効回答数、1992)の40.6%を占めた。
消費者がモノを買わなくなった原因は、世界的な経済危機が企業業績の悪化を招いたためだ。生産調整がはじまり、社員の解雇や派遣切り、賃金カットの不安が募ったことがある。消費者はますますモノを買わなくなり、企業の業績はさらに悪化するといったデフレスパイラル状態だ。
さらには、「捨てる」コストの上昇も響いている。ゴミ袋の有料化や、エアコンや冷蔵庫などの家電はリサイクル費用が必要になる。環境問題に対する意識の高まりは「使い捨て」や「大量消費」への反省となって、消費動向を変えた。新たな機能が追加されては製品が相次いで発売されるので、商品サイクルが短くなっていることも背景にある。 まだ、ある。デジタル化によって「ダウンロード販売」が進展し、CDやDVDなどのモノを持つ必要がなくなった。少子高齢化によって起こった年金不安などもある。「物欲消滅」の事態は、こうした要因が複雑にからみあって起こっている。
モノ買わないのは成熟社会の証拠
「物欲消滅」は企業にとっては大きなショックだ。これは消費者がすでにあらゆるモノを手に入れていて、そもそも買いたいモノやサービスがないし、「安くても買わない」とも受け取れるからだ。
消費者は本当に「物欲」をなくしてしまったのか――。
楽天証券経済研究所の山崎元氏は、消費者がモノを買わなくなったのは「消費者の価値観が変わったから」と指摘する。
たとえば、いいクルマに乗るのがカッコイイとか、より豪華なモノを買って満足したいとか、消費者が思わなくなって、環境への意識であったり、社会貢献や文化面で他人よりも高い評価を得たい、という価値観が消費の尺度になってきた、と分析する。
その原因を、山崎氏は「所得が増えない不安もあるが、個人の意欲や目標がなかなか成就せず、精神的にも防衛本能が働いている。一種の自信喪失状態で、そのためにモノをはじめ、『欲しい』という気持ちが働かなくなってしまった」とみている。
「社会としては、まったく悲観するようなことはない。消費者がモノを買わなくなったのは、社会が成熟した証拠だ」