シンガーソングライター・松本隆博さん、というより「松ちゃんの兄」、が怒っている。隆博さんが進めている、新型インフルエンザで1万枚のマスクを無料配布する企画「マスク配り隊」が誹謗・中傷の嵐にさらされているからだ。
一方的な意見は「ネットを履き違えてる」
「松本隆博プロジェクト!」内、「マスク配り隊」サイト
「今回のプロジェクトの主旨を理解し、『もっとこういうやり方があったのでは』という発展的な意見なら双方向の議論ができる。ただ、何も読まずに『売名』とか『生意気』とか、一方的なことを言われると本当につらい」
隆博さんは今回のバッシングに怒り心頭だ。隆博さんのブログには賛同するコメントがある一方で、「マスク独占禁止」「売名としか思えません」、巨大掲示板「2ちゃんねる」にも「なんでこんな露骨ないい人アピール売名するんだ?」「お前その1万枚はどうやって集めたんだよ」などといった声も目立っている。
弟である人気お笑いコンビ、ダウンタウンの松本人志さんの結婚発表直後だったこともマイナスに働いたかもしれない。意見が簡単に、自由に書けるインターネットの世界。だからこそ、「相手を理解しようとせず、10秒で反応し一方的な意見を書いてしまうような人は、ネットを履き違えているのでは」と反論する。そして、こうした「誹謗・中傷」が氾濫して、善意の「芽」をつんでしまっているのではないか、とも思ったという。
「世の中には本当にたくさんの課題があり、僕らはそのうち1個、2個について『正しい』と思ったことを頑張ってやっているんです。でも、それさえ中傷されるような社会なら、行動を止めてしまおう、と思ってしまう人もいるはず」
今回の「マスク配り隊」は、09年4月まで会社員だった隆博さんが独立、「この世に生まれて、『世間へのお役立ち』として何ができるだろう」と考え、「世の中を明るくしよう」と立ち上げた「松本隆博プロジェクト!」の一環だった。プロデューサーは、かねてからの仕事仲間である岡野弘文さん。ウェブコンサルティングや「おためしクラブ」などの通販サイト運営も手がけるエキセントリックデザインの社長だ。「マスク配り隊」の1万枚のマスクも、そもそも岡野さんが通販用に仕入れていたものだった。
「どうしても『松本兄』として見られてしまう」
岡野さんは、「マスク配り隊」を実施した経緯をこう説明している。
「クラスでひとり、マスクを持っていないから学校に行けないとか、心臓疾患の持病でマスクが欠かせないのに入手できない、とか。1枚のマスクに人が殺到している状況で、本当に困っている人がいるなか、『(自分のサイトで)売ってていいのかな』とは思っていました。それで、『なんとか多くの人に届けたい』という思いで隆博と相談して始めたんです」
配布予定の1万枚には申し込みが殺到し、その中には「本当に困っている」という声が多数あった。今後、こうした「生の声」を知ってもらうためにレポートも公開するという。そして「売名行為」という声に対しては、
「隆博や僕の過去と未来を見てもらえればと思う。隆博はチャリティーライブや、少子化・若者支援など社会の問題に対し多くのことをやっているし、僕も売り上げを全額寄付するチャリティーイベントを行ってきている。そんな2人が持てるものを出し合って発信する、というのは自然なことだし、今後もプロジェクトの中で証明していきたい」
とキッパリ。
「追加で1万枚の確保に向け調整中」ともいわれているが、これについては検討中だといい、プロジェクトの活動範囲を狭めないため、今後もスポンサーはつけず活動していく。
「今回のバッシングを屁とも思わないくらいの意気込みでプロジェクトを進めていきたい」と隆博さんはいう。特に力を入れているのが「親孝行したくなるプロジェクト2009」だ。「親への感謝エピソード」や「親孝行100の方法」を募集し、公開していくもので、こうした一つ一つの活動が、地味でも「社会にピリリと効いてくれたら嬉しい」。
ただ、複雑な心境もあかしている。「超有名人」松本人志さんの兄であるのは事実で、「弟にも迷惑がかかっているのではないか」と心配しているのだ。
「個人で何かやりたいと思っても、どうしても『松本兄』として見られてしまう。そう呼ばれず、誰にも迷惑もかけずに『松本隆博』として感謝されるようなプロジェクトを進めていきたい。それが、当面の目標です」