ネット上の中傷を恐れた親の意向を受け、川崎市が新型インフル感染疑いの段階で公表していなかったことが分かった。しかし、記者クラブの抗議を受け、市は不適切な対応と認めて謝罪している。やはりネットのせいにしたのが誤りだったのか。
「娘がショックを受け自殺するかもしれない」
ネット中傷に触れた毎日の記事
生徒がカナダで感染した大阪府立高校は、マスク未着用などで一部からバッシングを受けた。ケースは違うが、今回感染した神奈川県川崎市の女子高校生(16)の母親も、ネット上でのバッシングを恐れたようだ。毎日新聞の2009年5月21日付記事によると、市に対し、「娘がショックを受け自殺するかもしれない」と訴えた。
これに対し、同市は、その意向を尊重。これまでは感染国から帰国の場合は感染疑い例でも公表していたが、今回は、20日午後に疑いが分かった段階で公表せず、深夜になって感染が確定してから公表した。
ところが、共同通信の同日付記事によると、市は、感染疑いが分かった後も、マスコミからの問い合わせに「新型の疑い例はない」とウソをついていたというのだ。川崎記者クラブでは、このことについて市に抗議し、市は、不適切な対応と認めて、「申し訳ない」と謝罪した。
こうした経緯について、毎日では、「感染者を差別するネットの書き込みが公表にまで悪影響を及ぼしている」とネット上の誹謗・中傷に原因があるかのような見方をしている。
ネット上では、毎日の記事について、「共同通信は普通に市が虚偽回答したことを批判してるんだが、そこをネット批判にもっていくところが毎日っぽいな」(2ちゃんねる)といった声が出ている。
「年齢や性別など個人が特定できる情報を省き公表することもできた」
一方、毎日の同じ記事の中では、川崎市は、同市の対応に問題があったことを示唆している。市の医務監が、感染疑いの段階で「年齢や性別など個人が特定できる情報を省き公表することもできた」と言っているというのだ。
産経新聞の2009年5月20日付記事によると、東京都では、感染した八王子市の別の女子生徒について、同日深夜に学校名を伏せて公表した。記者側と押し問答になっても、高校が私立かどうかも明かしていない。帰国後に生徒が登校していないことから、学校名などは関係ないというのが理由だった。
結果的に、学校名などは、洗足学園高校の校長が記者会見するなどして分かった。
ネット上では、確かに、一部で高校バッシングも出た。しかし、感染した生徒らは、滞在したアメリカでもマスクを持ち歩き、帰国後すぐに発熱相談センターに連絡している。2ちゃんでは、「学校は叩かれるけど生徒は叩かれないと思うけどなあ」「お前らのせいで感染を隠すやつがあらわれたぞ!」「ネットなんか見なきゃいいんじゃね?」などと比較的冷静な見方も多い。
むしろ、市が感染疑いを隠して公表が遅れたことへの不信感の方が強い。「やっぱり隠蔽してたんだwwwww」「関西は開けっ広げでよかった」といった声がくすぶっている。
川崎市は、何もやましいことがないことを母親に説得し、個人が特定できる中身を省いた情報を公開して、不信の広がりをなくす努力をすべきだったのかもしれない。