新型インフルエンザがまん延する関西を空前の不況が襲っている。繁華街には以前のような活気がなくなり、飲食店や小売店が打撃を受けている。前年より売上げが4割減ったという大手百貨店もある。観光客やビジネスマンが減り、旅館やホテルも深刻だ。企業の倒産も起こっている。弱毒性と言われる新型インフルエンザだが、関西経済に与えたダメージは「強毒」だ。
関西地区百貨店、売上げが前年の4割減
大阪商工会議所は大阪市内の152社(回答率40.1%)に、新型インフルエンザが経済に及ぼす影響について2009年5月19日に緊急アンケートを行い、22日に中間結果を発表した。
小売業、飲食業、サービス業など14社(23%)が、「売上げが減少した」と回答。「イベントの中止・延期」(24社39.3%)、「対策コストの増加」(23社37.7%)、「取引・商談の中止、延期」(18社29.5%)と続く。
「住宅地にあるスーパーよりも、繁華街にある店のほうが影響は大きいようです。観光客が減り、市民も人混みや遠出を控えていますから」(経済産業部担当者)
また複数の企業から、「新型インフルエンザの脅威が季節性インフルエンザと比較して同じ程度なのか、政府の見解を早急に明らかにすべき」「弱毒性ということもわかってきたので、安全宣言を出してもらいたい」といった政府や自治体に対する要望が上がっている。
大阪・心斎橋と梅田、京都、神戸と関西中心に展開する大丸。J.フロントリテイリングの広報担当者は、
「感染が拡大しだした5月中旬頃から、関西地区の店舗で売上げが落ち込んでいます。前年より4割減という店もあります」
と明かす。
もっとも、このうち1割分は08年のリーマンショックから続く不況の影響。また2割については、例年実施しているカード会員向けのポイントアップキャンペーンがずれ込んだことが影響している、とみている。従って、新型インフルエンザによる売上げの減少率は1割程度となる。
しかし、楽観視はできない。
「心斎橋店周辺の商店街は、いつもなら観光客や地元客で肩がふれあうほどごった返していますが、新型インフル以降、通行人が2~3割減っています。今のままでは、うちもさらに減るかもしれません」
大阪高島屋の広報室担当者も、
「新型インフルエンザの影響だけではないと思うが、お客が減って売上げは厳しい状況」
と言い、「百貨店不況」に加えてダブルパンチを受けている。
キャンセル相次ぎ、旅館、ホテルが悲鳴
観光客やビジネスマンが遠のき、宿泊のキャンセルも深刻だ。
「修学旅行に限らず一般客からもキャンセルが相次いでいて、合計36万2000人分、損失額はおよそ43億円に上ります。ほとんどが資本金1000万~2000万円という中小規模の旅館なので、お客が来ないと従業員の給料をまかなえません。やむを得ず臨時休業するところも出てきています」
国際観光旅館連盟近畿支部の事務局長はため息交じりに説明する。
同支部は09年5月17~19日の3日間、大阪、京都、兵庫、奈良、和歌山、滋賀の195の旅館にキャンセル状況を聞いた。3日間に宿泊するはずだった客と、同期間にキャンセルを申し込んだ客の両方が含まれている。
内訳は、京都16万8000人(このうち15万人は修学旅行)、奈良5万5000人(修学旅行3万人)、兵庫7万7000人、滋賀2万8000人、大阪1万8000人、和歌山1万6000人。
また、キャンセル料については、当日の場合は全額が対象になるが、それ以外では10~50%程度で「大した額にならない」。
やむを得ず、国土交通省や中小企業庁に5月21日、緊急融資を要望した。
出張利用の多いビジネスホテルも深刻だ。西日本ホテル協会の担当者は、
「企業が営業活動や出張を自粛しているので、キャンセルもありますし、今は予約がほとんど入らない状態です」
と嘆いている。
少しでも利用者を増やそうと、ホテル入り口やレストラン入り口前にアルコール消毒液を置いたり、全館アルコール消毒を行うといった対策をしているホテルもあるが、「意外にコストがかかる」という問題もある。
「常連客に話を聞いたところ、6月から営業活動を再開する企業もあるそうです。なんとか5月を乗り切れれば・・・」
倒産する企業も出てきた。
関西空港など3つの空港に出店する玩具小売りの「いせや」(大阪市)は大阪地裁から破産手続き開始決定を5月21日に受けた。負債額は関連会社を含めて2億9400万円。
円高で海外からの来日客が減少したことに加えて、新型インフルエンザの流行で空港利用客が激減し、売上げが維持できなくなった。
帝国データバンクの情報部担当者は、
「新型インフルエンザの影響で倒産に至ったケースは、これが初めてです。SARSやO157がはやった時は旅行会社が倒産したり、食品会社にも影響が出ており、今回と似たような状況だと言えます。国やメディアの新型インフルに対する扱い次第では、体力のない中小企業の倒産はあり得るだろう」
と話している。