キヤノンの子会社で工場オフィスを「イスなし」にしていることが波紋を呼んでいる。社員は立ったままパソコンや電話を使うのだという。これに対し、1日中立ちっぱなしではきつすぎるのでは、という声がネット上で相次いでいる。会社側は、「生産性アップのため、自主的に取り組んでいることです」と説明している。
立ったままパソコンや電話を使っている
日経ITproサイトの記事
「本当に『いす』がなかった、キヤノン電子のオフィス」
日経ITproサイトに2009年5月19日、こんな見出しの記事が、写真付きで載ると、2ちゃんねるなどネット上では、驚きや批判の声が次々に上がった。
「えええええええ これは無いわ」
「足腰の弱い奴はやってけんな」
記事によると、キヤノン電子の埼玉・秩父工場では、応接室など一部を除き、会議室を含めてオフィスにイスがないというのだ。生産部門ばかりでなく管理部門もそうで、立ったままパソコンや電話を使っているともいう。立った姿勢に合わせるため、机に木製の「下駄」を履かせていた。
メリットとしては、集中力が高まること、社員同士のコミュニケーションが密になること、共用の書類棚にすぐ行けることなどが紹介されている。その結果、会議時間の半減、問題解決スピードアップなどの効果が表れたという。そして、記事によると、イスをなくした2000年から07年までに同社の経常利益率が9.7ポイント改善した。08年からは金融危機の影響を受けたが、それでも黒字を確保したという。
日経の記事では、工場内で、警報のような音が鳴る廊下も紹介されている。それは、広い工場で移動時間を節約するため、社員に歩くスピードをつけてもらうためというのだ。センサーが付いており、5メートルの青く塗られた廊下を3.6秒以内に通り抜けられないと、音が鳴って回転灯が光る。廊下には、「急ごう、さもないと会社も地球も滅びてしまう」と白く書かれていた。
「生産性アップのため、自主的に取り組んでいる」
オフィスで立ちっぱなしの労働環境は、法的には何か問題はないのか。
秩父労働基準監督署の第一課長は、「初めて聞きました」と驚きながらも、次のように話す。
「労働安全衛生法では、工場などで持続的に立って仕事をする場合には、座ってもよい時間に従業員が利用できるイスを備えないといけないということになっています。デスクワークでもそうです。事例によりますので現場を調べないと何とも言えませんが、法に触れる可能性はあると思います」
一方、廊下を歩くスピードについては、一定速度以上と定めることを禁じる法的規制はないという。ただ、第一課長は、「速く歩いたために廊下でつまずいてケガをしたという労災事故の事例があれば、その場合は指導の対象になると思います」としている。
もっとも、ネット上でも、疑問や批判ばかりではない。2ちゃんでは、
「立ち作業なんて接客業はみんな一日中立ってるんだから大した問題でも無い」
「会議だけは全員立ってやったほうがいい 眠くならないし」
といった書き込みもある。10年近くも続けており、立ちっぱなしに慣れたり、休憩時間にどこかで座ったりすれば、それほどきつくない可能性もありそうだ。
キヤノン電子の秘書室では、「ネット上の騒ぎは存じておりませんし、問い合わせも特に聞いていません。生産性アップのため、自主的に取り組んでいることです」と説明。キヤノンの広報部では、「キヤノン電子に聞いてほしい」としている。