テレビCMの約6割が視聴者の印象にほとんど残っていないーそんな調査結果が出て衝撃が広がっている。印象に残らないCMの中には、3億円以上を費やした企業や、年間に905回も流したものもあった、というのだから驚く。テレビでCMを流して知ってもらうという広告モデル自体が、破綻に向かっている、という見方も出ている。
年間905回のCMもダメだった
この調査はCM総合研究所が調査したもので、読売新聞が2009年5月15日に報道した。研究所によれば、この調査結果は読売新聞の独自取材によって記事になったもので、プレスリリースのようなものは無く、今後メディアに公表する予定はないという。研究所も予想外の反響の大きさに戸惑っているようだ。
調査したのは関東地方に住む6~89歳の男女計3000人。筆記式で毎月、印象や好感を持ったCMを最大5つまで記入させた。08年4月から09年3月まで、1年間に流されたテレビCMの数は1万7765作品あり、CMを出した企業は2019社。そのうち、777社のCMの1万147作品は全く記載されなかった、というのだ。つまり、約6割のCMが印象に残っていない、というわけだ。印象に残っていないCMの中には、一つの商品のCMに最大3億円以上を費やした企業が3社あり、年間に905回流していた企業も存在していたのだという。
ただし、広告代理店関係者は、「調査方法や調査の意図がはっきりわからない」ということから、印象が残らないCMが6割もあるということに首を傾げる。
一方、放送評論家の志賀信夫さんはこの調査から、テレビCMで認知度を上げるという広告モデル自体が破綻に向かっていて、「放送産業の危機が訪れている」と見ている。それは、不況の中で企業が多くのテレビCMを打てなくなったことと、視聴者のテレビ離れが大きな原因なのだそうだ。
志賀さんによれば、これまではテレビでCMを打てば必ず売れる、という神話があった。ただし、何度も何度もリピートしなければ視聴者の記憶に残らない、という考えから、大企業は圧倒的な量のCMを打ってきた。それが放送産業の隆盛をもたらしたわけだが、長引く不況から企業の業績が低下、視聴者の記憶に留めるだけの数を打つことが困難になってきた。インターネット広告という新しいジャンルが現れ、限られた広告宣伝費を割かねばならなくなったことも、テレビCMが減った原因だと話す。
「スポンサーにとって今はまさに端境期なんです」
視聴者にも変化が現れた。かつてのテレビを一日中つけっ放しだった家庭が減り、見たい番組だけ見る、という人が増えていった。それは「テレビに対する関心の低下」でもあり、企業が従来通り大量のCMを打ったとしても、視聴者に届かなくなっている、というのだ。こうしたことから志賀さんは、
「テレビは圧倒的な影響力がある、と考えていたスポンサーは、インターネットの隆盛を見て、『テレビだけじゃない』と考えるようになっています。テレビCMをどうするか、スポンサーにとって今はまさに端境期なんです」
と解説している。
事実、電通、博報堂といった日本を代表する広告代理店のテレビCM広告収入は3年前から下降。09年3月決算では2社とも赤字に転落した。両社ともにテレビの収入は下がり続けていて、電通の09年4月の売上げ実績は前年比17.5減。博報堂は11.6%減だ。広告費削減の動きはさらに強まっており、テレビ局の存亡にかかわる問題になっている。