「無理強いなく、金も払わず」でなぜ 大学生の淫行逮捕に疑問相次ぐ

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   千葉の男子大学生(20)が女子高生(17)への淫行で逮捕されたことに、ネット上で疑問の声が相次いでいる。大学生が無理強いしたり、お金を払ったりした事実はない。「恋愛関係がない」と警察はいうが、恋愛と「犯罪」はどう違うのか、今ひとつはっきりしない。違いがあいまいだと憲法違反論も根強く、論議になっている。

「恋愛関係はまったくありません」と警察

「普通の恋愛じゃねえか…」「なんか法律の方がおかしくない?」

   女子高生とみだらな行為をしたとして、千葉県警が2009年5月12日、千葉市内の私立大学3年生男子を県青少年健全育成条例違反の疑いで逮捕した。こんなニュースを産経新聞などが報じると、2ちゃんねるなどネット上では、疑問の声が相次いだ。

   男子大学生は、ミクシィで知り合った県立高校3年生女子に対し、08年9月上旬に自宅マンションで18歳未満と知りながらみだらな行為をした疑い。しかし、それだけでは、逮捕する理由が分からないというわけだ。

   印西署によると、交際中の男性が女子高生の携帯電話メールを勝手に見て、逮捕の男子大学生と遊んでいるのを知って口論になった。そこをたまたま通りがかった署員が職務質問をしたところ、女子高生は、ミクシィで知り合った大学生と電話で連絡を取り、学生の自宅に行った、と話したというのだ。

   千葉県の条例では、第20条に、「青少年に対し、威迫し、欺き、又は困惑させる等青少年の心身の未成熟に乗じた不当な手段によるほか、単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められない性行為又はわいせつな行為をしてはいけません」とある。逮捕の理由について、同署では、「恋愛関係はまったくありませんでした。合意はあったということですが、悪いと分かっていてみだらな行為をしたからです」と説明する。つまり、女子高生の未成熟に乗じる、あるいは自分の性的欲望を満たす、という明確な理由があったというわけだ。

   女子高生については、同署で補導した。男子大学生が無理強いしたり、お金を払ったりした事実はなく、このため強姦や児童買春ではなかった。ネット上の疑問の声については、「条例で決まっていることです」と理解を求めている。

「変えるとしたら議会などで議論していくしかない」

   淫行処罰規定のある青少年保護育成条例は、長野県を除く都道府県で定められている。しかし、「恋愛規制条例」と批判もされており、福岡県の事件では最高裁まで争って1985年10月に判例になっている。

   この判例では、交際・婚約中の青少年の場合は処罰の対象にならないとしたうえで、千葉県の条例のような内容は違憲ではないとしている。しかし、裁判官3人が、結婚できる16歳以上にも適用することは性的自由の不当な干渉だなどとして、淫行処罰規定は違憲という反対意見を述べている。

   自治体や司法関係者の間では、未だに条例についての見方が分かれているようだ。

   全国で唯一条例がない長野県では、「青少年の健全育成は規制してできるものでない」(生活文化課)と説明。「あくまで住民運動や啓発努力など活動の広がりでやっていくべきと考えています」といい、今後も条例を作る予定はないという。また、日弁連では、「淫行処罰規定については、子どもの人権を制限する面がある一方、子どもを守る面も確かにあります。基本的には慎重であるべきとの立場ですが、2つの利益が対立しているのは事実です」(人権第一課)と明かす。

   条例に詳しい慶應義塾大学の小山剛教授(憲法)は、男子大学生の逮捕について、こう話す。

「合意と恋愛感情とは違います。具体的な中身が分からないと何とも言えませんが、警察が逮捕するのは、条例の内容とどんぴしゃりなことをやったと判断しているケースだと思います。成年の合意とは違いますし、青少年の未成熟などを考えないといけません」

   もっとも、恋愛関係から警察が逮捕した場合は、条例違反を適用したことが憲法違反になるという。実際、愛知県の事件では、互いに恋愛感情を抱いていたとして、2007年5月に名古屋簡裁で無罪判決が出て確定している。

   ただ、小山教授は、淫行と恋愛を分ける基準が分からないとの声には理解を示し、次のように指摘する。

   「現在の条例では、淫行の適用を、憲法違反だとして排除できません。市民が望んだとして作られた条例ですので、もし変えるとしたら議会などで議論していくしかないでしょう」

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