「拉致問題の全貌は、北朝鮮外務省当局者でも良く分かっていない」
もっとも、専門家からは、田原氏の「死亡説」に懐疑的な声があがる。コリア・レポートの辺真一編集長は、
「外務省が『8人が亡くなっている』という話をしているのは、公式にも非公式にも聞いたことはありません。(田原氏は)北朝鮮担当者以外の、外務省関係者の『個人的な見方』を伝えているに過ぎないのでは」
と、懐疑的だ。ただ、「8人は絶対に生きている」とも言い切れないのが実際のところのようだ。拉致問題の担当大臣である河村建夫官房長官が08年12月17日、東京・有楽町の外国特派員協会で会見を開いた際、辺編集長は
「8名が間違いなく生存しているとの確証を持っているか。死亡した可能性は全くないと受け止めてもよいのか」
と質問。辺編集長は、「断固とした確証がある」との答えを期待していたのだが、実際の回答は
「『死亡した』との確固たる証拠がない以上、我々(政府)としては、生存としているとみて、救出に全力を挙げる」
と、腰が引けていると言われても仕方がないもの。このやり取りから、辺編集長は、
「北朝鮮は『亡くなっていることを証明できない』一方、日本側は『生存していることを証明できない』というのが公平な見方なのでは」
と、慎重だ。
また、北朝鮮側も一枚岩でないことが、問題を複雑化させている様子だ。
「実は、拉致問題の全貌については、北朝鮮外務省当局者でも良く分かっていません。宋日昊や政府高官も、『表の人間』に過ぎず、奥深いところまでは把握していません。拉致にかかわったのは、工作機関などの『裏の人間』。金正日総書記は『裏』も掌握していますから、『真相は金正日のみぞ知る』ということです」