高校バッシングも出た新型インフル騒動に、海外と比較して「騒ぎすぎ」との指摘が出ている。感染者でないのにマスクが必要なのか、といった疑問からだ。専門家はむしろ、秋からの第2波、第3波こそ要警戒だとみている。
「カナダの人は『日本は大騒ぎしすぎて迷惑だ』」
「なぜマスクをつけない。学校のリスク管理は問題だ」
「もう少し早く帰国する判断をするべきだった」
大阪の府立高校生ら4人が発症した国内初の新型インフルエンザ感染。それが2009年5月9日に判明してから2日間で、こんな批判的な意見が府教委や3高校に計50件以上も相次いだ。
3校では、感染国のカナダ滞在中にマスクをつける指導をせず、人混みのある大リーグ観戦などをしていた。そして、同国での感染者が相次いでも、そのまま滞在を続けた。その判断が甘いと批判を浴びたのだ。
これに対し、大阪府の橋下徹知事は9日、記者団に、現地での判断は難しかったとしながらも、「結果的には少し認識の甘い対応だった」との見方を示した。
ところが、読売新聞の9日付記事によると、引率教諭は「現地でマスクをしている人がおらず、集団でつけていると奇異の目で見られると思い、着用させなかった」という。人々は感染しているわけではないからだ。また、産経の同日付記事では、カナダ旅行をした主婦(54)も、「カナダの人は『日本は大騒ぎしすぎて迷惑だ』と言っていた。マスクを付けている人はほとんどいなかった」と話している。
今回の新型インフルは、弱毒性とも言われ、全世界で確認された死者が50人強に留まっている。こうした状況から、感染国のアメリカでは、大半の学校が授業を再開したと報じられている。米ハーバード大が8日に発表した調査では、「1年以内に家族が感染するとは思わない」とする人が6割にも上った。海外では、感染国でさえ、人々が冷静な対応をしているようだ。
「批判の多くは、根拠が乏しい高校へのバッシング」
カナダでの大阪の3高校は、対応が誤っていたといえるのか。
理化学研究所の永井美之感染症研究ネットワーク支援センター長(ウイルス学)は、こう言う。
「9割の人がマスクをつけているのに、つけていなかったというのなら分かります。しかし、高校生たちがカナダに行ったころは、感染が拡大している環境ではなかった。そんな中で、全員がマスクをする行動は取れないでしょう。批判の多くは、根拠が乏しい高校へのバッシングですよ」
現時点では、大騒ぎする理由はないとのことのようだ。
永井センター長は、高校生らの停留や接触者の外出自粛については仕方がないとしながらも、政府は、物理的な限界を考え、行動計画を緩めるかどうかなど適切なシフトをすべきだと指摘する。
しかし、永井センター長は、弱毒性という分類ができるのは鳥インフルだけで、今回の豚インフルはそうとは言えないと指摘する。「今回のウイルスは、ごく一部の患者ではっきりとした肺炎を起こしているようだ。その点で季節性インフルよりやや毒性が高いかもしれない」という。
そのうえで、多数の死者を出したスペイン風邪の例を挙げて、こう警告するのだ。
「1918年春にアメリカで発生した第1波では、死者もあまり出ませんでした。しかし、その後おそらく突然変異で病原性が強くなって、第2波のピークとなった9、10、11月は、大量の死者が出たんです。そして、次の年の春に起きた第3波でも、死亡率は同様な高さでした。今回の新型インフルエンザも、同じ時期に始まっており、秋にも同様な第2波が起こりえますね」
政府が着手したワクチンは、第3波しか間に合わない可能性もあるという。永井センター長は、「タミフルなどの薬剤が、第一の選択になりますね。インフルエンザは早期発見して、早期診断と治療をするのが優先事項になってくるでしょう」と話している。