米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙が開設する日本語版サイトは、ネット課金の幅を世界に広げるのが狙いとみられている。新聞本体の経営が行き詰まっていることが背景にあるらしい。しかし、課金モデルでどれだけの読者を得られるのか、疑問も出ている。
「アジアでも大きな市場を持つ日本で読者を開拓」
2月開設のWSJ紙アジア版サイト
なぜあの名門経済紙が今さら、日本語版サイトを作るのか。こう不思議に思った人も多いだろう。
米メディア大手ダウ・ジョーンズ発行のウォール・ストリート・ジャーナル紙は、1889年に創刊されたアメリカを代表するクオリティペーパーだ。それが、2009年5月7日、日本のネット金融大手のSBIホールディングスと5月中に合弁会社を設立し、日本語版サイトを09年内に開設すると発表した。SBI社は、かつてはソフトバンク傘下にあり、北尾吉孝CEOがフジテレビ買収問題で同局支援のホワイトナイトになったことで知られる。
サイトに載せるのは、新聞やダウ社の投資情報誌「バロンズ」などからの翻訳ニュース、日本側では、SBI証券などの金融情報などだ。ダウ社の親会社ニューズ・コーポレーション傘下のFOXテレビなどから番組動画を配信することも検討中。ニュースなどは基本的に有料で、一部を無料にするという。
日本語版開設の理由について、SBIホールディングスでは、「アジアでも大きな市場を持つ日本で読者を開拓するためです」と代弁する。
アジアでは、すでに中国で02年に中国語版サイトが開設され、登録者数が50万人超に達した。日本は、現地語サイトとしてアジアで2番目になる。英語では、09年2月にアジア版とインド版のサイトが開設されている。
ダウ社がアジアを選んだのは、その大きな市場価値からとみられる。アメリカでは、大手新聞社さえ広告収入減などで経営難に陥っており、WSJ紙も例外ではない。そこで、ネット課金の記事を増やしている。が、一国だけでは収入が限られるため、世界各国で現地語版などを次々に立ち上げているらしい。
提携したSBI社では、証券会社などの顧客にWSJ紙の日本語ニュースを提供することで、顧客獲得の増加につなげることが狙いと説明している。
「解説記事などを読む人がどれだけいるかは疑問」
金融ニュースは米ブルームバーグが独り勝ちとも言われ、日本でも、日本語ニュースなどを配信している。そんな中で、名門とはいえ、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に勝算はあるのか。
SBIホールディングスでは、こう強調する。
「速報にも力を入れますが、論説がメインになります。グローバルな経済について深く解説した記事で、アメリカではご意見番とされています。それを日本人の肌に合うようにして、十分棲み分けができると考えています」
ネットとメディアとの関係に詳しい評論家の歌田明弘さんは、その勝算について、やや懐疑的だ。
「日本でウォール・ストリート・ジャーナル紙を読む人は限られ、知名度はアメリカより低いので、コストをどれだけかけずに展開できるかにかかっているでしょうね。解説記事だけでは料金設定にも限界があり、アクセスをどう集めるかも課題ですね」
かつてライブドアなどのIT企業がテレビ局の買収に乗り出すほど、マスメディアは脚光を浴びた。しかし、各メディアが経営難に陥っている状況に、歌田さんは、「今はアメリカでも新聞社の買い手が見つからなくなっているぐらいで、企業にとって、お荷物になりかねない状況です」と指摘する。SBI社が提携したことについて、「同社のグループの会員制サービスなどでの付加的なサービスとして利用するなど二次的な展開を考えているのではないでしょうか。そのような可能性に着目しているのだと思います」
日本のメディアへのインパクトについても、その影響力低下から、「ウォール・ストリート・ジャーナルが日本に進出したことの心理的インパクトは大きいと思いますが、実質的な脅威はさしあたりは限定的でしょう。たしかに日経などには潜在的には脅威になりうると思いますが、とりあえず様子見というところでは」と話している。