運用の基本は「安全運転」 大学は「投機」やめるべきだ 
(連載「大学崩壊」第4回/「早稲田のゴーン」關昭太郎さんに聞く)

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   少子化が進み定員割れの大学が続出するなか、どこも厳しい経営環境におかれている。2009年には、運用益を当て込んで運用をしていた金融派生商品によって、多額の損失を出す大学も相次いだ。「早稲田のゴーン」の別名でも知られ、早大財務担当理事や副総長として12年間にわたって同大の経営立て直しを進めた關昭太郎さんに、大学経営のあり方について聞いた。

無駄を平気で放置する精神が蔓延していた

大学の財政のあり方について語る關昭太郎さん
大学の財政のあり方について語る關昭太郎さん

――ここ10年ほどで、経営が厳しくなっている大学が目立っています。それはなぜでしょうか。

關:   実は、90年代から大学経営は大きく変わらないといけなかったのです。18歳未満の人口の減少、受験生の奪い合いが、この時から始まったんです。もっとも、人口構成を見ればこの事態は予測できたのですが、大学はそれに対応できなかった、ということです。大学は、一度文部省(現・文部科学省)の認可を受ければ、その監督下で外部影響をほとんど受けずにすむ「護送船団方式」と「先送り主義」でやってきましたし、その結果生まれた既得権益にも守られてきたんです。教職員の人件費は上がる一方だし、様々な無駄もなくならない。明治時代からの古いDNA、これを次世代に持ち越してはいけない。
   結論は、マネジメントの欠落ということです。

――94年に早稲田の財務担当理事に就任しましたが、当時の経営状態はどうだったんでしょうか。

關:   前任者からこう言われたのです。
   「もうすぐ赤字額は1000億を超えるだろう。財務は『後追い』なので、予算や新規計画についての発信・発言力はない。権限はない」
   組織が金属疲労を起こしていると思いました。
   この時点で早稲田は390億円の有利子負債を抱えていて、年間約22億円の利息を払っていました。有力13私立大学の状況を比較すると、13校の平均の、収入に対する負債比率は19.8%だったのですが、早稲田は何と55%。他大と比べても、財務体質が非常に悪かった。有利子負債は「複利の資金」として見る必要があります。つまり、390億円というのは、借り入れ金利が6%~6.5%でしたから、10年間というスパンで見れば、およそ2倍の800億円の財政負担になります。

――危機感はなかったのでしょうか。

關:   学内には無駄を平気で放置する精神が蔓延していました。スクラップ・アンド・ビルドができない集団なんです。全体として高コスト体質で、支出の全体に占める人件費など経費の割合が高かった。さらに、意味のない支出も多くありました。教員が大学と雇用契約を結んでいるケースはほとんどないのですが、何故か雇用保険料を大学と教員が折半している。電気・水道・印刷など、基本的な無駄使いも多くありました。

――どのような対策を取ったんですか。

關:   「大学経営といえども、聖域があってはいけない」という結論に達しました。「財の独立無くして学の独立なし。学の独立なくして学問の自由はない」と訴えるようになったんです。「財の独立」こそが民主主義経営の基礎なのです。
   アクションプランを策定し、実行に移しました。教員からは、「うちは会社じゃないんだから」との声も出ましたが、「財政がしっかりしていないと、教育・研究環境も改善できない」という意識を徹底させるようにしました。経費の削減も徹底的にやりました。「ちりも積もれば山となる」というか、結構ばかになりません。

経費30%カットに猛反発、結局「前年比5%削減を毎年続ける」

   当初は経費30%カットを目指したのですが、猛反発があって「10%でいこう」としたんです。それでも「現場がついていけない」ということになって、結局は「前年比5%削減を毎年続ける」になりました。そうして削減した経費を、教育・研究のために投入しました。また、4半期報告を徹底して行うかたちで、情報公開を進めるようにしました。
    ただ、これで節約した資金は、内部留保に回すのではなく、教育・研究費として再投資することにしました。私の在任中も教育研究関係の予算は、ゆるやかではありますが、上昇を続けていました。その他の経費については、ひたすら押さえ、活性化をしました。12年間、毎日、逆風の連続でした。心ある学部長からは応援する声もありましたが…。

――大学の現状についてどう感じていますか。

關:   18才人口の減少は大学をどう変えるのか、学校産業界は答えを出していない。大学経営は新次元に入ったのです。入学定員に満たない大学が42%超。これが現状です。受験者が減少していくと、学校経営が難しくなるのは当たり前。同時に、社会も衰退していきます。大学も同時につぶれていくような社会環境におかれていることを理解する必要があります。問題なのは、マネジメントの考え方が欠落していること。2つめは、「護送船団方式」と既得権益の上にあぐらをかいていること。その結果守られたのは、教職員のポストと給料です。で、金属疲労とでもいうべき事態が起きてしまっているんです。
1. 40%は文科省の責任。大学全体の見取り図を描いていないからです。
2. 45%は、学校法人の責任です。経営感覚がない人が、責任逃れ体制のまま、経営にあたっている点。
3. 15%は、見て見ぬふりをしている利害関係者、ステークホルダーです。

――今後これらの大学は、どのようになってしまうのでしょう。

關:   全国には大学が約760校ありますが、「大学は永遠」ということは、決してありません。淘汰の時代の始まりです。そういう意味で、グローバル化の競争が、すでに始まりました。そんな時代に、作らなくても良い大学が作られています。文部科学省は、認可申請を出されて、ある程度の財政の見通しが示されれば、申請をOKせざるを得ないんです。ですが、例えば開校3年後の状況をチェックしているかと言えば、そうではない。いざ開校してみると、ほとんど赤字です。(不正経理が明らかになった)山梨の健康科学大学のケースも、文科省は見抜けなかった。チェックが甘すぎます。こういうこともあって、定員割れの大学が40%を超えているんです。こういう大学は赤字がずっと続いていく。企業でいえば、「バンザイ」。倒産ですよ。近いうちに淘汰されるでしょう。
   こういう現状を理解できないのが「大学人」と呼ばれる、エスノセントリズム(自文化中心主義)症候群にかかっている集団です。一体どこから手をつけたらいいのか分からない。経営に対して無知な人が、経営にあたっている。その結果、大学の再編が行われることになるでしょう。
   最近の事例では、慶應が共立薬科大学を事実上吸収しましたし、関西学院大学も聖和大学(兵庫県西宮市)に対してM&Aをしました。こういうケースが、今後続出していくと思います。グローバル化が進む中で、競争できる大学にしていくためには、このような施策が必要なんです。大学の二極分化は大いにあることで、ダメ大学は潰れます。一方、生き残れる大学は、国際的スタンダードで評価される大学にならないといけない。

「そんなことをしたら、自分の子どもが大学からいじめられる」

――状況を改善するには、何が必要なのでしょうか

關:    イノベーションです。企業社会とまったく同じです。そのためには、
1. どのような仕事をしているのか棚卸しをすること
2. その中で、効率的に仕事ができているか調査すること
3. 予算の執行状況をチェックすること
が必要です。大学では「もらったらもらいっぱなし」の悪しき慣習が続いていたんです。財政悪化の根源を調べるため、収入と支出を見直すことが重要です。
   strategy(戦略)、 planning(計画・立案)、operation(運用)、result check(結果の検証)という一連の流れが重要です。こうした教育の「エンジニアリングシステム」が必要で、これで、大学の評価が上がり、学生一人ひとりに対し多くの付加価値を与えることが出来るのです。

――情報公開の重要性も強調していますね。

關:    3年ほど前に公益法人に対して(官と民で、どちらが競争力があるかを競争入札で問う)「市場化テスト」というものが行われました。大学についても、同じようなことを行うべきだと思っているんです。国立はもちろんのこと、私立についても、税金を受け取っている訳ですから、ステークホルダーのためにも、市場化テストが必要だと思います。
   大学側からは「補助金が足らない」という声があがっていますが、とんでもないことです。「まず隗より始めよ」で、自分たちの状況を振り返って、どのような経営努力をしているのか、情報公開・開示することの方が先。補助金・交付金を無駄に使っていないかをチェックすることが必要です。税金から支払われている訳ですから。状況を、ちゃんと見届ける必要があるんです。市場化テストの上、競争的アウトソーシングを徹底的に導入することが大事な時代です。

――米国の大学経営から学ぶべきことはありますか。

關:   米国の大学では、ステークホルダーの参加を望んでいます。ステークホルダーが黙っていると、変化を起こせない。ところが、日本のステークホルダーはモノを言いません。「母校がひどいな。なんとかして欲しいな」と思っていても、何も発信しない。これは良くない。私の講演を聴いた人からアドバイスを求められて、
「学校の広報なりに、意見を言うべきだ」
と伝えたら、
「そんなことをしたら、自分の子どもが大学からいじめられる」
という答えが返ってきたんです。驚きましたね。そういう発想で、大学の改革なんてできません。ステークホルダーに刺激してもらわないと、教育は良くなりません。黙っているのは無責任です。一部の人達をのぞいて、教育に関心を持たない人が多い。これは由々しき事態です。国造りの基本は教育、特に大学教育にあるということを強く申し上げたい。

大学には資産運用ができる人材ほとんど育っていない

――2008年には金融商品で多額の損失を出す大学が続出しました。

關:   大学の収入が悪化していることもあって、0.1%でも高い利回りを求めて努力をしています。はしかのように、この傾向が大学業界の中にバーッと広がっている。銀行や証券会社は、「高利回り商品」なるものを、各大学に斡旋します。よく考えれば、突出して利回りが良い商品なんて存在するはずがないのです。
   もっとも、大学には資産運用ができる人材は、ほとんど育っていません。だからこそ、運用については、外部の意見を参考にする。運用というのは、非常に気を遣うし、リスクも大きい。にもかかわらず、商品の内容をきちんと理解しないままに投資に参加していることがあるから恐ろしいんです。ハーバードやコロンビアでは、運用担当者に専門家を招いています。米国の大学の運用担当者は、インベストメントバンクから、高額の報酬でスカウトされた人です。米国では、そういう人材を大事に育てています。日本と大きく違います。

――損失は「大学が、金融機関のいいなりになっていたことが原因」ということでしょうか?

關:   金融機関は、金融商品を販売した際には手数料収入が入ります。ですから、大学にも金融機関から「オイシイ話」が持ち込まれます。円建て預金、特約のあるもの、円建てからドル建てにシフトするもの、問題化している金融派生商品(デリバティブ)も多様化が進んでいます。債権とデリバティブを組み合わせた「仕組み債」も出回っている。
    そうなると、市場実勢からかけ離れた商品も多数出回るようになっています。高利回り商品については、十分内容を確認して、投資コスト・手数料・為替手数料などを確認して「うまい話はない」ことを念頭に意志決定をしないといけません。ですが、今の日本の大学の財務担当責任者には、こういうことが分からない人が多い。
   だから、私のところには、怪しい商品の勧誘は来ませんでした。金融機関の方も、私の(証券会社社長という)経歴を知っていますからね。そういうことを分からずに、資金投下をしてしまう例が多いんです。商品の性質が分かっていなかったんでしょう。
   リーマンショックは、私たちの予想をはるかに超える出来事ですが、レバレッジをかけるかかけないかによって、マイナスの谷底に落ちたら、元も子もないぐらいに(資産を)はき出さないといけない結果になります。そもそも、そういう勉強をした上の投資なのか、きわめて疑問です。そこで、早稲田でも(現在、自分が理事を務めている)東洋大学でも、資本市場で、株価形成の仕組み、債券・その他諸々の金融商品について勉強させるために、財務担当者は金融機関又は運用会社に出向させています。

――一部では、「デリバティブのような危険な資産運用はやめるべき」、との声もありますね。

關:   学校法人というのは公益体ですし、財源は学生からの授業料です。ですから、原則としてスペキュラティブ(投機的)なことは避けるべきです。ただ、学校の経営は大変厳しい環境なのも事実です。「大変なスペシャリストがいて、金融商品について十分に検討できる環境がある」という大学であれば、若干のリスクを取ることも可能でしょう。ですが、基本は「安全運転」。その中で、少しでも利回りを高いものを求める努力をすべきではないでしょうか。

關昭太郎さん プロフィール
せき・しょうたろう 東洋大学常勤理事

1929年東京生まれ。53年早稲田大学第一商学部卒業。同年山種証券(現: SMBCフレンド証券)入社。92年山種証券社長に就任し、93年退任。94年早稲田大学財務担当理事に就任、同大学副総長兼募金担当常任理事などを経て現職。著書に「早稲田再生」(ダイヤモンド社)など。

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