大学には資産運用ができる人材ほとんど育っていない
――2008年には金融商品で多額の損失を出す大学が続出しました。
關: 大学の収入が悪化していることもあって、0.1%でも高い利回りを求めて努力をしています。はしかのように、この傾向が大学業界の中にバーッと広がっている。銀行や証券会社は、「高利回り商品」なるものを、各大学に斡旋します。よく考えれば、突出して利回りが良い商品なんて存在するはずがないのです。
もっとも、大学には資産運用ができる人材は、ほとんど育っていません。だからこそ、運用については、外部の意見を参考にする。運用というのは、非常に気を遣うし、リスクも大きい。にもかかわらず、商品の内容をきちんと理解しないままに投資に参加していることがあるから恐ろしいんです。ハーバードやコロンビアでは、運用担当者に専門家を招いています。米国の大学の運用担当者は、インベストメントバンクから、高額の報酬でスカウトされた人です。米国では、そういう人材を大事に育てています。日本と大きく違います。
――損失は「大学が、金融機関のいいなりになっていたことが原因」ということでしょうか?
關: 金融機関は、金融商品を販売した際には手数料収入が入ります。ですから、大学にも金融機関から「オイシイ話」が持ち込まれます。円建て預金、特約のあるもの、円建てからドル建てにシフトするもの、問題化している金融派生商品(デリバティブ)も多様化が進んでいます。債権とデリバティブを組み合わせた「仕組み債」も出回っている。
そうなると、市場実勢からかけ離れた商品も多数出回るようになっています。高利回り商品については、十分内容を確認して、投資コスト・手数料・為替手数料などを確認して「うまい話はない」ことを念頭に意志決定をしないといけません。ですが、今の日本の大学の財務担当責任者には、こういうことが分からない人が多い。
だから、私のところには、怪しい商品の勧誘は来ませんでした。金融機関の方も、私の(証券会社社長という)経歴を知っていますからね。そういうことを分からずに、資金投下をしてしまう例が多いんです。商品の性質が分かっていなかったんでしょう。
リーマンショックは、私たちの予想をはるかに超える出来事ですが、レバレッジをかけるかかけないかによって、マイナスの谷底に落ちたら、元も子もないぐらいに(資産を)はき出さないといけない結果になります。そもそも、そういう勉強をした上の投資なのか、きわめて疑問です。そこで、早稲田でも(現在、自分が理事を務めている)東洋大学でも、資本市場で、株価形成の仕組み、債券・その他諸々の金融商品について勉強させるために、財務担当者は金融機関又は運用会社に出向させています。
――一部では、「デリバティブのような危険な資産運用はやめるべき」、との声もありますね。
關: 学校法人というのは公益体ですし、財源は学生からの授業料です。ですから、原則としてスペキュラティブ(投機的)なことは避けるべきです。ただ、学校の経営は大変厳しい環境なのも事実です。「大変なスペシャリストがいて、金融商品について十分に検討できる環境がある」という大学であれば、若干のリスクを取ることも可能でしょう。ですが、基本は「安全運転」。その中で、少しでも利回りを高いものを求める努力をすべきではないでしょうか。
關昭太郎さん プロフィール
せき・しょうたろう 東洋大学常勤理事
1929年東京生まれ。53年早稲田大学第一商学部卒業。同年山種証券(現: SMBCフレンド証券)入社。92年山種証券社長に就任し、93年退任。94年早稲田大学財務担当理事に就任、同大学副総長兼募金担当常任理事などを経て現職。著書に「早稲田再生」(ダイヤモンド社)など。