月が太陽をすっぽりと隠してしまう「皆既日食」。この珍しい天体現象が2009年7月22日、鹿児島県沖のトカラ列島や奄美大島、種子島近辺で見られるとあって、旅行会社のツアーには希望者が殺到、もう満杯だという。島では日食にあわせたイベントも企画されており、早くもお祭り状態だ。
「トカラ皆既日食観測ツアー」の倍率30倍
皆既日食が日本で観測されるのは1963年に北海道で観測されて以来、実に46年ぶりだ。しかも、次に観測できるのは26年後の2035年。注目度が高いのもそのためだ。
そんな中、近畿日本ツーリストは2008年末、「トカラ皆既日食観測ツアー」を企画した。同社広報によると第1回、第2回、第3回とわけて抽選により1500人を募集したところ、どのツアーも定員数の2倍を超える応募が殺到した。
トカラ列島は7つの小島からなるが、その中で最も長く皆既日食を観測できる「悪石島」のツアーは、実に30倍の倍率という狭き門だった。また、ツアーはすでに定員数に達してしまったが、それでもキャンセル待ちを望む希望者も多い。なお、料金は30万円~140万円と海外旅行並みの高お値段だ。
トカラ列島は全人口600人ほどの小さな島だ。水・電気・ガスは住民分しか確保できない。そこに1500人が殺到するわけだから、受け入れる島側は対応に迫られている。鹿児島県鹿児島郡十島村の担当者はこう話す。
「ツアー客は民宿かキャンプ場、学校等に泊まることになっています。その際、心配なのが食料。業者とも提携して食事を用意したり、ペットボトル入りの水を配布したりすることにしました(料金はツアー代金に含まれている)。また、暑さで体調を崩されるのも心配ですから、1つの島に1人の医師、複数人の看護師を配置する手はずを整えています」
なお、「トカラ列島」でのツアーは満員の状況だが、近畿日本ツーリストは2009年4月、「奄美大島皆既日食観測ツアー」の募集も開始した。こちらは定員数3000人のうち3分の1ほどが埋まっている状況で、まだまだ余裕がある。ツアーにより料金は異なるが、最低10万円ほどがかかる。
奄美大島でもダンス音楽を一晩中流す大規模イベント
皆既日食にあわせては各地でイベントも開催される。種子島では「皆既日食」前日の7月21日に実施する。種子島観光協会の担当者によると、詳細はまだまだ検討中だが、アーティストの日比野克彦さんやコピーライターの糸井重里さんらを招いたトークショーを企画している。
「実は7月20日(日本時間では21日)は、アポロ11号が月面着陸した日なんです。種子島といえば宇宙センターがあり、『月に一番近い島』とうたっております。皆既日食も重なる記念すべき時ですから、島全体で盛り上げたい。観光客を出迎えたり、小さなプレゼントを手渡したりもしたいと考えております」
島を売り出す絶好のチャンスだ、と意気込んでいるようだ。
一方、奄美大島では7月16日~24日、野外イベント「奄美皆既日食音楽祭」を開催する。この音楽祭は、いわゆる「トランスレイヴ」と呼ばれるダンス音楽を一晩中流す大規模イベントだ。サイケデリックトランスやダンスミュージックに加え、奄美の島唄や伝統音楽も奏でる。このイベントを企画した「ブランニューメイド」の担当者は、次のように話す。
「世界では毎年どこかで見られる皆既日食の時、野外フェスがよく行われているんです。そこで、日本でもと企画したわけです。音楽祭は夕方から夜中が基本ですが、皆既日食のときには昼間もなんらかのイベントをしたい。もっとも、日食中は音をとめ、みなで見つめることになると思います」