ふだんは目立たない繊維株がにわかに注目されている。メキシコ発の新型豚インフルエンザが世界的に猛威を振るっている中で、関連する医薬品株とともに、繊維株は「マスク」への使用急増を連想させるからだ。個人投資家の物色も少なくないようで、日清紡ホールディングスやダイワボウ、シキボウ、富士紡ホールディングスといった、かつての名門企業の株価が軒並み上昇中だ。
トップは北日本紡績、値上がり率は73.71%
新型の豚インフルエンザの流行が世界各国に広がるなかで、世界保健機関(WHO)が警戒水準レベルを「フェーズ5」に引き上げた2009年4月30日。株価値上がり率のトップから第7位までを、なんと繊維株が独占した。
トップは北日本紡績(大証2部)株で、値上がり率は前日(4月28日)比73.71%(30円高)の71円を付けた。
次いで、オーベクス(東証2部)同71.43%(30円高)の72円。オーミケンシ(東証1部)50.06%(25円高)の73円、大東紡織(東証1部)同50.0%(30円高)の90円までが値上がり率で50%を超えた。繊維セクターは軒並みストップ高、年初来高値を記録した。
ふだんはまったくといって目立たない、低位株の代名詞のような繊維株だが、豚インフルエンザの流行が株価を押し上げた。
かつての基幹産業だった繊維業もいまは低迷。日清紡HDや東洋紡、ユニチカといった大手の名門企業は「脱センイ」を掲げていて、肌着や衣料、生活や健康用品からフィルムや電子部品、不動産・レジャーなどの「多角化」経営に乗り出している。その一環として医療用品、医薬品への進出も盛んになってきた。
とはいえ、いま注目されているのは「マスク」。そこに使われる繊維の需要を見越しての「買い」だ。「もとの株価が低いので買いやすいこともあるだろうが、(繊維セクターで)こんなことはめったにない」(中堅証券のアナリスト)という。
「マスク」に関係なくても買われている
新型の豚インフルエンザに大流行の兆しががあるなかで、「マスク」の需要は大いに見込まれる。若い女性をターゲットに発売したピンクのマスクにシールを飾れる「デコりマスク」で業績を伸ばした、マスク製造の川本産業(東証2部)の株価も前日比10円高の480円。豚インフルエンザ報道の第一報があった4月24日と比べると、わずか3営業日で130円も上昇した。
しかし、前出の証券アナリストは「ここ数日は『紡績』の名前だけで買われている。手元資金が短期的に流れ込んでいるにすぎない」と、一過性の動きとみている。
日本はインフルエンザが流行する冬を越したばかりで、マスク需要は落ちる季節に入っている。ある繊維大手も、「ちょうど品薄になるタイミングでの新型インフルエンザなので、特需ではないかと余計に注目された」と推察している。
大阪に本社を構え、東証1部・大証1部に上場するトーア紡コーポレーションの4月30日の株価は前日比30円高の91円。「ストップ高だったので、株主から何か発表したのかといった内容の問い合わせが殺到した」(総務部)という。
「マスクは需要が限られていることもあって、伸びる商品とは言いがたいですね。いまは『マスク=繊維』というだけで急騰しているだけなので…」と、胸中は少し複雑なようだ。