舛添厚労相が示した豚インフルエンザのワクチン優先製造について、専門家から「流行に間に合わないのでは」との懸念が出ている。そのせいで、季節性インフルエンザのワクチンが疎かになれば、何のための製造なのかというのだ。厚労省では、流行の再来に備えてなどと説明するが…。
「国民に行き渡るまでに1年から1年半」
まさに「想定外」の事態になっている。
厚生労働省は、鳥インフルエンザが「新型」になりうるとして、その予防ワクチンを備蓄していた。ところが、このワクチンが使えない豚インフルエンザが「新型」になりうるというのだ。
豚インフルのワクチンは、もちろん備蓄がない。そこで、舛添要一厚労相は2009年4月27日、このワクチンについて「季節性インフルエンザのワクチン製造を一時停止してでも、早急に作る態勢を組みたい」と報道陣に明らかにした。
鳥インフルのワクチンが使えないのは、そのウイルス「H5N1型」と違って、豚インフルのウイルスが「H1N1型」だからだ。ワクチンは、豚インフルで死者まで発生したメキシコなどからウイルスの株を分けてもらって製造することになる。
しかし、日本で豚インフルが流行したとしても、ワクチンが間に合わない可能性が強いというのだ。理化学研究所の永井美之感染症研究ネットワーク支援センター長(ウイルス学)は、こう指摘する。
「一番の問題は、ワクチンができて、国民に行き渡るまでに1年から1年半もかかることです。製造中に流行が終われば、ワクチンは無駄になります。対策を慌ててやっているようですが、そのようなことをどう考えるのか」
さらに懸念されるのが、季節性インフルのワクチン製造が疎かになる問題だ。
「日本の生産キャパシティを超えてしまうので、通常のワクチンが不足することになります。日本でインフルエンザの感染者数は多く、死亡の率は低くても絶対数は多いので、高齢者で亡くなる方が増えてくるでしょう」