大学生を対象にした「就職希望ランキング」で常に上位に顔を出しているのが全日空(ANA)だ。だが、2009年に入って子会社がストライキを2回も行うなど、ここ数年ストライキを繰り返しているのだ。90年代初めまでは「ストと言えばJAL」で、それがANA躍進の一因ともいわれたが、いったい、何が起こっているのか。
ANAグループ「スト2回目」は96年以来
ANAグループのストが相次いでいる(写真はエアーニッポン機)
ANAグループ4社の労働組合は2009年3月18日、春闘での会社側の回答を不満として24時間のストライキに突入。国内線137便が欠航し、約9500人の足に影響が出た。その後も交渉はまとまらず、わずか1か月後の4月15日には、再びストを決行。149便が欠航し、約7000人に影響が出た。
ANA広報室によると、ANAグループ内で1年に2回以上のストが行われるのは、96年にANA本体の組合が行って以来13年ぶりで、異例の事態だとも言えそうだ。
今回のストライキを行ったのは、「エアーニッポン(ANK)」「エアーセントラル」「エアーニッポンネットワーク」「エアーネクスト」の4社の労働組合。この4組合には、管理職以外の全パイロット(約600人)が加入しており、ここ5年を見ただけでも06年3月と07年4月にもストライキを行っており、それぞれ115便、136便が欠航している。
一方、JALグループを見てみると、07年12月と08年6月に、日本エアコミューター(JAC)や日本トランスオーシャン航空(JTA)の組合がストに突入しているが、ANAのように全国的に欠航の影響が及ぶまでには至っていない。ANA側のストの多さが際だつ形だ。1980年代後半から90年代前半にかけては、ANAよりもJALの方がストライキが圧倒的に多かったことを考えると、隔世の感があるとも言える。
ANA本体パイロット年収は2200万円
この背景には、ANAグループ内の「本体」と「子会社」の待遇格差がある。
4社の組合が、09年4月に行った2度目のストライキに先だって発表した文書では、
「全日空経営は、6年前から経営の都合で子会社を乱立してきました。そのたびに全日空本体の都合の良いような仕組みを関連子会社に持ち込み、好き勝手に経営してきました」
と指摘。その上で、
「全日空本体乗員と子会社乗員の賃金水準は、約3 倍の格差(労働内容や公休数を加味すればそれ以上)があります」
と、給与格差を問題視している。なお、ANAの有価証券報告書によると、08年3月31日時点でのANA本体運航乗務員(パイロット、平均年齢44.5歳)の平均年収は約2200万円。
4組合のうちのひとつであるエアーニッポン(ANK)乗員組合(福岡市)によると、グループ会社副機長の平均年収は約800万円で、機長でも約1100万円。前出の文書にある「格差3倍」は、やや誇張気味にしても、かなりの待遇差があるのは間違いなさそうだ、
ANK乗員組合では
「数年前に会社側が、機種によって労働条件を固定する『フリート・アンド・リソース戦略』を打ち出しました。子会社は小型機の運航が中心なので、必然的に労働条件も悪くなります。(小型機よりも労働条件の良い)中型機運航の一定割合を、本体から子会社に移すことで合意されていたのですが、この約束が反故にされたんです」
と、相次ぐストに理解を求めている。一方、ANA広報室では、
「06年のスト以降、同じテーマ・争点での交渉が続いています。すぐに解決できるテーマではありませんが、時間をかけて解決を図っていければと考えています」
と話し、06年以来、経営側と組合側との対立構造が変わっていないことを明らかにしている。
ANAは09年1月30日、09年3月期の決算が6年ぶりの赤字に転落する見通しを発表したばかり。100億円の経常損失と90億円の純損失を見込んでおり、人件費削減などのコスト削減策を進めていく考えだ。子会社の組合側が主張するような「本社-子会社」の格差が埋めるためには、本体の賃下げか子会社の賃上げしか方法はないが、後者の可能性は低く、今後もストの回数が減らない可能性もある。