「家族介護で、介護うつになる人も多いようです」
再度のけがでショックを受けたのか、清水由貴子さんの母親は、入院中に認知症が進行してしまった。退院後も車いすの生活となり、入院中の介護保険申請で、母親は、最も重い要介護度5と判定された。
そして、週5回、介護サービスを利用することになり、武蔵野市内のデイサービスセンター2か所に送迎を受けて通う日が続いた。家族の中では、由貴子さんが家で母親の介護をし、妹が仕事で家計を助けていたという。
家族の負担も重くなったため、「自殺」4日前の2009年4月16日には、ケアマネージャーを中心に介護サービス関係者6人が、由貴子さんの家に集まって担当者会議を開いた。そこでは、今後の介護をどうすべきかについて、由貴子さんを交えて話し合った。当日の由貴子さんについて、武蔵野市の高齢者支援課担当者は、先述のような話をしたうえで、「介護に悩んだり疲れたりなど、特に変わった様子はなかったと聞いています」と話す。由貴子さんは、「ありがとう」と感謝の言葉を述べていたともいう。
「自殺」が分かった21日は、デイサービスの担当者が朝に迎えに行って不在だったため、由貴子さんの携帯などに留守電を入れた。その後、帰宅した妹から聞いたところ、「母と姉は父のお墓参りに言ったと聞いています。キャンセルし忘れたのですかね」と話したという。
武蔵野市の担当者は、由貴子さんの母親に対する介護支援について、「サービスを拒否することもなく、協力体制がありました」と説明する。重度の要介護状態になった母親が施設入所しなかったことについては、「市の在宅介護は充実しており、自宅でサービスを受ける人も多いです。施設に入るかは、それぞれの家族の事情があると思います」と話している。
認知症などは家族の負担になっていることも多く、最近は「介護自殺」「介護殺人」が頻発している。
日本介護クラフトユニオンの広報担当者は、「家族介護で、介護うつになる人も多いようです。要介護度5までいくと、在宅介護はなかなか難しいかもしれません」と言う。一方、認知症の人と家族の会の小川正事務局長は、「家族同士がつながればアドバイスで悩みが救われるので、由貴子さんもそうであったなら、とも思います。できれば、住み慣れた家で介護を受けるのがいい。しかし、日本では、在宅での家族支援は立ち後れており、そのためにも、介護従事者の待遇改善などが今後必要になってくるでしょう」と話している。