アメリカのBSE騒動で調達しにくくなった牛肉の代用で始まった「豚丼」。そのメニューが、牛丼チェーンの一つ「すき家」から、姿を消すことになった。代用とはいえ、ある程度定着したことから、惜しむ声も聞かれる。豚丼はどうなるのか。
「主力の牛丼とカレーを値下げするため」
すき家の豚丼が休止に
一口に「豚丼」と言っても、牛丼チェーンによって呼び方が異なる。吉野家では「ぶたどん」と呼び、今回販売を休止するすき家では「とんどん」と言っている。松屋では、「豚(ぶた)めし」だ。
そもそも牛丼屋の豚丼は、BSE問題で2003年末にアメリカ産牛肉が輸入できなくなったのがきっかけ。安い同国産牛を使う牛丼チェーンがほとんどだったため、国産では採算が採れないなどと騒ぎになり、苦肉の策として「代用丼」が生み出された。その性格から、各社で豚丼の呼び方が分かれているらしい。
その後、アメリカ産の輸入が再開され、牛丼が復活したが、多くのチェーンで、豚丼の販売が並行して続けられている。しかし、ここに来て、すき家が、2009年4月23日から豚丼の販売を休止することを明らかにした。
どうして販売休止に踏み切ったのか。
すき家を展開するゼンショーの広報室に聞くと、「休止が目的でも主でもありません」と困惑した様子。そして、「今回の発表は、主力の牛丼とカレーを並盛で330円に値下げするのがメインです。豚丼の販売休止は、それに付随するものなんですよ」と強調した。
同社によると、販売休止は、それによって仕入れや店舗作業を効率化して値下げ原資に充て、牛丼などをより求めやすい価格で提供するためだという。値下げそのものは、店舗数が吉野家を抜いて日本一になったのを契機に、市場シェアを広げるのが狙いらしい。
ただ、ネット上では、お馴染みになった豚丼が食べられなくなることを惜しむ声も多い。ミクシィの日記では、「え!すき家の豚丼がなくなるのはショック!!」「牛肉あんまり好きじゃないのに^p^」といった書き込みが相次いでいる。一方、ゼンショーには、「おいしかったので、ぜひ復活を」といったメールなどが10件ほど来ているという。
「好きな方が多い」と吉野家は販売継続
代用丼と呼ばれた「豚丼」は、これまでどんな売れ行きだったのか。
すき家を展開するゼンショーでは、売り上げなどは発表していないといい、「大事なメニューであり、売り上げの中で一定比率はありました」と言うのみだ。同じゼンショーグループの「なか卯」では、豚丼として「豚どんぶり」を販売していたが、オーストラリア産牛肉の使用で牛丼が復活したため、2005年10月で販売を終えている。
現在も豚丼を販売している吉野家では、BSE問題で牛丼がなかったとき、豚丼が主力商品になった。その後、様々なメニューが出たが、同社によると、牛丼不在の中でも、定番として一番多く売れていたという。
06年9月に牛丼が復活し、その後通常通りの販売に戻ると、売り上げはもちろん牛丼が圧倒的に。しかし、豚丼は、現在も牛丼に次ぐ2番手の売り上げになっている。
「味があっさりしていて、食べやすいという声をいただいています。牛丼よりも50円安いのも人気の理由ですね」(広報担当者)
豚丼も売れば、コストはかかる。牛丼の単品に絞り込んだ方が無駄はなくなり、高い利益率も達成できる。しかし、今後も販売は続けるという。「豚丼が好きな方が多いからです。牛肉の輸入がまた止まったときに、リスク分散になるという考え方もありますね」
豚めしがメニューにある松屋も、販売を続けるとしている。それは、ある程度完成した味になったからだという。
「豚めしは、幾度となく改良して、今の味にたどり着き、受け入れられるようになりました。牛丼の代替品のイメージがあるかもしれませんが、そんなことはまったくありません。値段がうちの牛めしより30円安いのも、魅力のようですね。牛めしが復活してから売り上げが減りましたが、今ではすっかり定着して牛めしの次の人気をキープしていますよ」