楽天など勝ち組のIT企業は、新入社員研修で、営業力や情報収集力などの育成に力を入れている。カード入会を働きかけさせたり、はやるネットサービスを予想させたり。そのノウハウを学べば、不況から脱出できる!?
楽天イーグルスのチケット販売で走り回る
「うちはもともと営業の会社。三木谷浩史ら2人で会社を始め、いろんな商店にお願いしながら楽天市場を作り上げました。以来、10年以上も、そのDNAを受け継いでいるんですよ」
楽天の広報担当者は、会社が営業を重視している理由を、こう説明する。
そんな同社では、新入社員研修も営業のメニューが豊富だ。
2009年4月から1か月間行う研修では、約300人の新入社員が、楽天カードの新規申し込みの営業や楽天イーグルスの球場でのチケット販売などで走り回っている。ビジネスマナーや事業内容を学ぶための座学の講義もあるが、新入社員を対象にしたものとしては、かなり実践的な内容だ。
前年から引き続いて実施しており、同社独自の仕事の進め方「楽天ウエイ」を学んでもらうのが狙い。以前は、グループで街中に出て、雑誌を定期購読してもらうための営業研修もしていた。
この世界的大不況の中で、楽天の業績は、比較的好調で、09年4月には、前年の170人を2倍近くも上回る人数が入社した。IT系の勝ち組企業だけに、元気で特異な才能を持った人材が集まっているという。営業研修については、「やる気があるので、すぐに目標を達成してしまう」(広報担当者)としている。
また、同じIT系のサイバーエージェントでは、1か月間の新入社員研修で例年、営業のロールプレイングを通じてコミュニケーション力を育成する2泊3日の宿泊研修を採り入れている。
「この研修は、営業のノウハウをたたき込むのが目的ではありません。ビジネスの流れを学び、学生から気持ちを切り替えてもらうためです」(広報担当者)
09年の研修でも、アポの取り方から名刺交換、ヒアリング、事業提案などを実際に試しながら覚えていく。このほかは、マナー講習や事業部説明会などだ。
同社も、前年の86人より多い101人が入社した勝ち組企業の一つ。広報担当者は、「新入社員の成長意欲は、とても高いです。今は、各社とも採用人数を絞っており、いい人材を獲得するチャンスだと考えています」と話す。
「新卒はコミュニケーション苦手」の声も
新入社員研修では、情報収集力に力を入れているIT企業もある。
ポータルサイト最大手のヤフーは、2週間の日程内に、ネットで1年以内にはやるサービスを予想させる同社独自の研修を行った。同社では、130種類以上ものサービスがある。
「情報収集の大切さを気づくように促すためです。結果を出す楽しみを体験して、成長するきっかけづくりにしてほしい」
ヤフーの広報担当者は、その狙いをこう説明する。ビジネスマナーなども教えており、エンジニア職種は、ほかに技術研修を2か月近く行う。
独り勝ちとも言われるほど多くのユーザーを持つポータルサイトの巨人だけに、09年は、同社に244人もが入社した。「IT企業への入社意識の高い人が多いです」と広報担当者は言う。
勝ち組企業では、入社する学生の質も高いようだが、大不況下で、こうした企業はごく限られているのが現状だ。
新入社員研修などの事業を手かげているリクルートマネジメントソリューションズでは、企業の実情について、こう話す。
「各企業からは、若手がコミュニケーションを上手にできないという声をよく聞きます。推測ですが、少子化、核家族化などのほかに、ケータイメールのやり取りに慣れて人間関係が狭くなっていることも一因でしょう。それに対し、『コミュニケーションの基本をしっかり教えてほしい』と企業から要望が来ていますね」
このため、同社では、ビジネスマナー、報告・連絡・相談(ホウレンソウ)などを基礎から学ぶオーソドックスな研修プログラムを主に提供している。
新入社員研修について、ある企業の広報担当者は、「全体的に学生の質が落ちて、ピリッとしないというので、昨年は、体育会系の厳しい研修に戻ったと聞いています。しかし、この大不況で採用が少ない分、新卒者は危機感を持って、能力向上に打ち込むのではないでしょうか」と話している。