リクルートが毎年行っている「大学生の就職志望企業ランキング」(2009年版)によると、上位には不況のなか、JRなど「社会インフラ」関連や銀行、食品系の企業が並び、「安定志向」が顕著になった形だ。逆に不況の影響をもろに受けたメーカー各社は、学生に「手のひらを返された」ように、軒並み大きく順位を落とす結果となっている。こうした選択は正しいのか。
「業績悪化報道」があった企業は順位下げた
調査は、大学生と大学院生7909人の回答を集計した。「就職志望企業」については、第1志望から第5希望までを入力する形となっている。調査期間は2009年1月30日から2月16日。
男女総合ランキングでは、東海旅客鉄道(JR東海)が1位、東日本旅客鉄道(JR東日本)が2位、全日本空輸(ANA)が3位と、インフラ関連の企業が堅調。第4位以降はみずほフィナンシャルグループ、三菱UFJ信託銀行、三菱東京UFJ銀行と銀行が続き、20位以内には東京海上日動火災保険(第7位)などの損害保険会社や、明治製菓(第16位)など食品系企業の躍進が目立つ。
一方、電機、自動車関連をみると、02年まで5年連続で1位だったソニーが29位(08年8位)、シャープが55位(同14位)、キヤノン77位(同20位)トヨタ自動車が96位(同6位)と、前年から軒並み大きく順位を下げている。
リクルート広報部は、「インフラや金融、生活必需品を扱う企業は学生に、『不景気でもなくならない』と思われているようだ。また、調査期間に『業績悪化報道』があった企業は順位を下げた」と話す。ただ、「学生は知っている企業の名前が限られているので、報道や広報活動に引っ張られることも多い」とも指摘する。
学生は「断片的な情報を近視眼的に頼る」
確かに学生が企業イメージや報道に流される傾向は強い。以前の調査でも、トヨタ自動車が初めて1位を獲得した02年は、同年3月期決算で経常利益1兆円超を達成するなど好調さが伝えられていた。翌03年は6位に順位を落とすものの、04年には純利益が1兆円を超えると報じられ、再び1位に返り咲いている。また、金融業界再編でメガバンクが誕生した06年の調査では、東京三菱銀行(前年の05年52位)と、101位以下だったUFJ銀行が合併(06年1月1日)した三菱東京UFJ銀行が、一気に6位まで順位を上げている。
「成功就活50のルール」の著書があり、「就活力アップセミナー」で講師をしている二瓶正之さんは、今の学生は入手する情報量が多く、情報感度は鋭い反面、「リアル」の世界が狭まっており、OB訪問などで「生の情報」を入手することに消極的だ、と分析する。
「例えば今回(09年)の調査では、トヨタ自動車が96位と大きく順位を下げています。これは一連の業績悪化によるものでしょうが、圧倒的な財務基盤をもつ同社がここまで順位を下げるというのは、学生が評価眼を持ちえていない証拠かな、とも思います。インターネットやテレビの断片的な情報を、近視眼的に頼りすぎている面があるのではないでしょうか」
新卒就活生の指導を行っている岡崎塾塾長の岡崎充さんも、
「多くの学生はCMをやっている会社か父親の働いている会社くらいしか知らないのでは」
とし、志望企業の傾向について、こう指摘している。
「今の子は素直でまじめな子が多いから、マスコミが報じることを鵜呑みにする傾向がある。ランキングは指標としては必要ですが、学生の回答にはあまり根拠はないんじゃないでしょうかね」