北朝鮮の「後継者レース」に注目が集まるなか、国会にあたる最高人民会議が開かれ、金正日総書記が最高ポストに当たる「国防委員長」に3選された。国内では「この会議の場で後継者が明らかにされるのでは」との憶測も高まっていたが、後継者の発表はなかった。後継者として様々な人物の名前が取りざたされており、事態は混迷を深めている。
3男の正雲氏説も根強い
最高人民会議は2009年4月9日に開かれ、金正日総書記も会議の場に登場。以前よりもやせた様子だった。会議では、金総書記が3期目の国防委員長に選出されたほか、金総書記の義弟にあたる張成沢(チャン・ソンテク)氏が、国防委員のひとりに選出。後継準備を視野に入れた「後見人」としての役割を担うと見られているが、後継者そのものが明らかになることはなかった。
従来、「後継者レース」の候補としては、長男の正男(ジョンナム)氏、次男の正哲(ジョンチョル)氏などが取りざたされてきた。また、09年1月には韓国の聯合ニュースが「金総書記が後継者として、3男の正雲(ジョンウン)氏を指名した」と報じ、世界中の注目を集めた。一部には「張成沢氏が、すでに権力を掌握している」との説を唱える向きもある。それ以外に、「金総書記は、実は03年に死亡している」との説を唱えている早稲田大学の重村智計教授などは、金日成主席が晩年に側近女性に産ませたとされる金賢(キム・ヒョン)氏も有力候補のひとりだとみている。
これらの中で、圧倒的にメディア露出が多いのが正男氏だ。例えば09年3月30日には、北京でフジテレビに対して
「皆知っているように、年をとれば体重は減ります。太るよりは、やせる方がいいでしょう」
と、金総書記の「激やせ」の背景を解説してみせた。関西大学の李英和教授は、この映像を解説する際に、
「3月16日に、労働党の中央本部で、文書で『後継者が決定した』ということが下達された。金正男氏に内定した可能性が高い」
と、「正男説」を唱えている。
「私はただの『自由人』」という長男
だが、正男氏は、北朝鮮が「人工衛星」と主張するミサイル発射後の4月7日には、マカオでTBSに対して
「(発射後の)国際社会の動向を注意深く見守りたい。緊張が高まると思う。それを憂慮している」
と語り、後継者問題については、
「多くの人が『私が後継者かも』と推測するのですが、私はただの『自由人』。もちろん、私は彼(金総書記)の3人の息子のうちのひとりで、長男です。でも、それ以上でもそれ以下でもない。私は、北朝鮮にはいかなる政治的立場もありません」
と、「お世継ぎ説」には否定的だ。
このことから、コリア・レポートの辺真一編集長は、
「少なくとも、今回の件ではっきりしたのは、『正男氏は100%ない』ということ。人ごとみたいな喋り方ですし、自らレースから『降りてしまっている』格好です」
と、後継候補は正哲氏と正雲氏の2人に絞られたとの見方だ。ただ、2人のうちどちらが後継者なのかについては、きわめて慎重だ。
「今回の件では、日・米・韓の情報収集能力のなさを露呈しました。人民会議は、午前中にはほとんどの内容が終わっていたはずで、オブザーバーを含めると700人近くが参加していました。平壌には西側の外交使節もいます。それでも、各国は『会議に金正日総書記が出席していたか』という点を、20時の国営テレビのニュースまで分からなかったんです。北朝鮮の情報統制能力のすごさを見せつけられた形です」
その上で、
「日本や韓国では、これまで『関係筋によると~』といった情報源を根拠に後継者問題が語られることも多かったですが、この情報統制の厳しさを考えると、いかにいい加減な憶測記事が書かれてきたかを認識すべきです」
と、クギをさしている。